web書籍では、「なんとなく生きづらいがフッとなくなるノート」はじめに・第1章をお読みいただけます。

web書籍のはじめに・第1章は、発売されている書籍に加筆した内容になっています。また、スマホやPCで読みやすく編集しています。

 

【はじめに】

 

「人の悩みの9割は人間関係」
とある心理学者はこう断言しています。
では、その人間関係の悩みには、具体的にどういうものがあるでしょうか。

 

私は心理カウンセラーとして、多くの方々のさまざまな悩みを聞き、その解決を手助けしてきました。
悩みは人それぞれですが、その中で代表的なものを並べると、以下のようになります。

▶ネガティブ思考 ▶対人恐怖 ▶感情が不安定 ▶感情をため込む(抑圧)▶自分をさらけ出せない ▶人に頼れない ▶甘えるのが苦手 ▶3人以上になると意見が言えない ▶パートナーからの暴言やDV ▶夫婦関係が悪い ▶仕事が続かない ▶挫折体験 ▶子どもへの過干渉 ▶人前だと手足が震える ▶依存症 ▶子どもの不登校 ▶人間不信 ▶自信喪失 ▶何をしても満たされない  ▶白黒思考(考えが極端) ▶過去のトラウマがフラッシュバックする ▶完璧主義 ▶人との距離感うまく取れない

 

悩みはさまざまですが、これらはすべて「生きづらさ」につながっています。

 

「なんとなく生きづらい」—–この本を手に取られたあなたも、きっとそう感じたことがあるでしょう。

普段は気づきづらいかもしれませんが、仕事や学校を休んだり、挫折感を味わったり、うまくいかないことがあると、ふと生きづらさを感じてしまうものです。

同時に、多くの人がここで大きな問題にぶつかります。それは、「自分が生きづらさを感じる原因がわからない」ということです。

 

じつは、あなたがなんとなく生きづらさを感じるのは、気づかないうちに繰り返している「思考・行動パターン」が原因です。ここを改善できれば、それまで感じていた生きづらさが嘘のように「フッ」となくなります。これは私がカウンセリングを通して実際に目にしてきたことです。

 

人はよくも悪くも環境によってつくられます。性格や考え方、感情などは、環境から大きな影響を受けています。

ここでいう環境とは、親との家庭環境や学生時代の環境、職場環境などです。

 

大切なのは、環境によってつくられた生きづらさのルーツ(過去)を知り、それと向き合うことです。そして、自分の「存在」と「思考パターン・行動パターン」を切り離すことで初めて、その解決の糸口が見えてくるのです。

 

つまり、あなたの存在が悪いのではなく、思考・行動パターンが問題だということ。そこを改善することで、今感じている生きづらさから解放されます。

 

かくいう私も、原因不明の生きづらさに苦しめられていた時期があります。実際、カウンセラーになるまで、その生きづらさのルーツはわかりませんでした。しかし、カウンセリングと心理療法に出合い、それらを実践していくことで生きづらさを克服することができたのです。

 

心理カウンセリングを題材とした書籍は数多くありますが、本書でご紹介するのは、「問題解決型」のカウンセリングです。このカウンセリングは、心理療法を活用し、自分の思考・行動パターンを自分で改善していくものです(詳しくは、第1章で解説します)。

 

 

この本の中の心理療法を1つでも実践していただければ、解決の糸口がきっと見つかるはずです。

 

反対に、実践なくしては何も変えることはできないでしょう。この本は「魔法みたいに楽にしてほしい」という人には、残念ながらおすすめできません。しかし、「本気で変わりたい」と心から思っている人には、必ず役に立てることでしょう。

 

この本を読めば、なんとなくモヤモヤしていた生きづらさの正体がわかります。そして、あなたがなぜ生きづらさを感じていたのか、自分で確かめる方法もお伝えします。

 

すでに何かしらの薬を服用されている方もいるかもしれませんが、それを飲み続けるのはとてもつらいことでしょう。この本で紹介する療法では、薬は一切使用しません。薬に頼りたくない人にも自信を持っておすすめできます。

 

私は問題解決型カウンセリングで、通常のカウンセリングなら半年~1年以上もかかる症例を、3~5回程度のセラピーで解決しています。このスピードの理由は、私がクライエントに「その心理療法がなぜ、どのように機能するのか」など、メソッドをすべて説明しているからです。

 

この本には数々の心理療法が登場しますが、頑張れるときに実践できればそれで大丈夫です。無理せず、今の自分に合う心理療法を無理なく行うことがポイントです。合わない療法は続けなくて結構です。知識として知っていて損はありませんが、すべてを実践する必要はありません。

 

ただ、1つお願いがあります。「自分に合いそうだ!」と思った心理療法は、なるべく3日以内に行動に起こしてほしいのです。人の感情は熱しやすく冷めやすいものです。まだ熱いうちに、ぜひ実践してみてください。

 

また、ご紹介する心理療法は、私が実際にカウンセリングで活用しているものなので、どなたにでも実践していただけるよう、簡単な説明を心がけました。心理学で使う難しい専門用語はなるべく使わないようにしています。

 

この本の構成は以下のとおりです。

第1章では、通常のカウンセリングと問題解決型カウンセリングの違いを紹介し、問題解決型カウンセリングがなぜ生きづらさに効くのか解説します。

続く第2章からは、実際のカウンセリングの流れにそって、心理療法を紹介していきます。

第2章では自分の気持ちを整理する「書き出し療法」、第3章では感情をコントロールする「白黒思考改善療法」「フォーカシング」「イメージ療法」「ダイナマイト爆破療法」、第4章では重たい悩みと決別する「心の配分調整療法」「ダビング療法」「階層化療法」「イメージワーク療法」、第5章では自分の未来を描く「サクセスストーリー療法」「パーミション療法」をご紹介します。

 

*このweb書籍では、第1章をお読みいただけます。

 

各章には、私が実際に使用しているカウンセリングシートをもとに、書き込み式のワークを準備しています。そのまま書き込んでいただいてもいいですし、コピー用紙など、適当な紙を使っていただいても構いません。

 

また、ダウンロードのマーク👇がついているものは、巻末にダウンロードページを設けているので、そこからワークシートのPDFをダウンロードしていただくこともできます。

 

*ワークシートのダウンロードは書籍をご購入いただいた方がおこなえます。詳しくは書籍をご覧ください。

 

この本の目的は、生きづらさを感じている方に、私が培ってきた問題解決型カウンセリングを通じて、心理療法をお伝えすること。そして、その方が自分の心の問題を解決できるよう手助けをすることです。

 

悩みに大きい小さいもありません。悩みを誰かと比べる必要もありません。あなた自身が「生きづらい」と感じているのだとしたら、それは大きな悩みなのです。

しかし、同じことをしていたら、同じ結果になるのは当たり前です。今までと違う結果を得たいのであれば、違うことを試さなければいけません。これは自分を変えるための原則です。

 

日々の生活の中で劇的に何かが変わるということはありません。明日起きたら、内向的な人が超社交的になることもありません。

しかし、何を変えればいいのかが理解でき、小さな行動を起こし、小さな変化を実感できれば、やがてそれは大きな変化につながっていきます。

 

この本を読んで、「思考・行動パターン」を改善できれば、あなたが抱えている「なんとなく生きづらい」はフッとなくなるはずです。

 

それでは、「問題解決型カウンセリング」のはじまりです。

(前田泰章)

 

★web書籍の第1章は、発売されている書籍に加筆した内容になっています。また、スマホやPCで読みやすく編集しています。

 


<目次>

【第1章】問題解決型カウンセリングとは?

①一般的なカウンセリングとは違う、問題解決型カウンセリング

・カウンセリングとは、「対話による療法」 

・問題解決型カウンセリングとは「カウンセリング×心理療法」 

②問題解決型カウンセリングの仕組み

・問題解決型カウンセラーの役目とは? 

・カウンセリングで大切なこと 

③問題解決型カウンセリングが「生きづらさ」に効く理由

・過去の人間関係で、繰り返すパターンを知る 

・人生最大の質問「私は、本当はどうなりたいのだろう?」 

 

 

 

第1章 問題解決型カウンセリングとは?

 

①一般的なカウンセリングとは違う、問題解決型カウンセリング

 

カウンセリングとは「対話による療法」

はじめてクライエント(相談者)にお会いするとき、私が必ず聞いていることがあります。

それはこんな質問です。

 

「カウンセリングについて、どんな印象がありますか?」

 

こう聞くと、ほとんどの方は、「よくわからない」「あまり知らない」とお答えになります。

カウンセリングという言葉は知っていても、実際、どんなことをするのか、どんな効果があるのかは知らないという人が多いのです。みなさんもそうではないでしょうか。

 

よく言われることですが、欧米諸国、とくにアメリカでは、自分たちで解決できない悩みや心の問題があったとき、カウンセラーに相談し、解決策を探すことはめずらしいことではありません。それは風邪になったら医師の診療を受けるように、当たり前のことです。

 

それにくらべて日本では、「心の問題を人に話すのは恥ずかしい」「気持ちの問題だから、自分で解決するしかない」と考えがちで、心の不調があっても精神科や心療内科を受診することすらためらう人が多くいます。

 

ましてや自分からカウンセリングを受けようという人はほとんどいません。

これでは、カウンセリングやカウンセラーについての知識が少ないのは、当然のことです。

 

どんなものかわからなければ、カウンセリングを受けてみようという気持ちにはならないでしょうし、さらには「本当に効果があるの?」と疑いの目で見てしまうものです。

そういったカウンセリングに対する不安や心配を払拭するためにも、まずみなさんに知っていただきたいのが、一般的なカウンセリングの方法とその効果です。

 

 

カウンセリングとは、対話による療法です。

 

カウンセラーとクライエントが1対1で行うものもあれば、グループで行うものもあります。いずれにしろ、おもに言葉を使い、話し合いによってクライエントの問題や悩みを解決していきます。

 

ただし、「対話」とはいっても、そのメインは「聞く」ことです。日本で一般的に行われているカウンセリングのほとんどは、傾聴(相手の話を積極的に聴くこと)と共感を重視します。

カウンセラーは少し質問をしたり、相づちをうつくらいで、ほとんど言葉を発しません。

 

このカウンセリングの技法は、1940年代に、アメリカの心理学者カール・ランサム・ロジャーズが提唱した「来談者(クライエント)中心療法」が元になっています。

 

この療法では、「人間は誰でも潜在的に、自己成長・自己実現を達成する力を持っている」ものとし、心理的な療法を行う者はあくまでも脇役として、積極的なアドバイスや指示はせず、「聞き役」に徹することが大切だとしています。

このロジャーズの考えは、現在も、カウンセラーが示すべき態度・姿勢の基本とされています。

 

こう説明すると、当然、「話を聞いてもらうだけなのに、効果があるのはなぜ?」と不思議に思う方もいらっしゃるでしょう。

 

けれども、みなさんにもこんな経験はありませんか?

「仕事のことや人間関係のことでもんもんと悩んでいたけれど、家族に話を打ち明けたらすっきりした」

 

「仕事で失敗して落ち込んでいたけれど、友達に愚痴をきいてもらったら、元気が出てきた」

きっと、思い当たることがあるはずです。

 

人は、心のうちにある感情や思いを言葉にして吐き出すことで、気持ちが楽になったり、癒やされたりします。

これを心理学用語で「カタルシス効果」または「自浄作用」と言います。

カウンセリングにも、このカタルシス効果が期待できるのです。

 

加えて、カウンセリングの場は、クライエントの心の内を話すためだけに用意された特別な空間・時間です。

普段の生活では、なかなか自分の話だけをする時間はないでしょうし、聞き手はあなたの言動をすべて受け入れてくれるわけではありません。

「あなたが間違っているんじゃない?」

「自分はそうは思わない」

などと、否定されることもあるでしょう。

 

一方、カウンセリングの場合、時間の許す限り、あなたが話したいことだけを話せばいいですし、カウンセラーはそれをすべて受け入れ、肯定し、共感してくれます。これは日常にはない、非日常の空間と言えます。

 

だからこそ、「人には言えない悩み」や「漠然としたつらさ」を思う存分吐き出すことができます。誰にも言えないと心にしまっていたことを聞いてもらえるので、より大きなカタルシス効果が得られるのです。

 

また、カウンセリングを繰り返すなかで、自分の心の中の問題を言語化していくと、心の中が徐々に整理されていきます。客観的に自分を見られるようになっていくのです。

 

その結果、クライエントは今まで見えていなかった本当の気持ちや問題の原因に気づいていきます。最終的には、これからどうすればよいか、解決策を見つけていくこともできます。

 

 

問題解決型カウンセリングとは「カウンセリング×心理療法」

こうした一般的なカウンセリングに対して、私が行っている「問題解決型カウンセリング」とは、その名の通り、より積極的に、短期間で問題を解決に導くカウンセリングです。

簡単に說明すると、カウンセリングと、さまざまな心理療法を組み合わせた療法です。

心理療法とは、薬や、熱や光といった物理的なエネルギーを使うのではなく、対話やトレーニングなどを通して心の状態を改善するための療法で、心理学や医学を元に考案されています。

その種類はさまざまで、カウンセリングも心理療法の一種ですし、そのほか、催眠療法やブリーフセラピー、フォーカシング、NLP(神経言語プログラミング)、箱庭療法、音楽療法など100以上の療法があると言われています。

当然、それぞれに効果も違いますし、人によって合う・合わないもあるでしょう。

 

そこで問題解決型カウンセリングでは、一般的なカウンセリングを行った後、クライエントの悩みや性格に合わせたその他の心理療法を行います。

 

しかも心理療法を行うのは、クライエント本人です。

 

通常、心理療法はカウンセラーや心理セラピストと呼ばれる専門家のもとで行われますが、問題解決型カウンセリングの場合は、カウセリングという場を通してクライエントに心理療法を指導し、実生活のなかで活用できるようにします。

 

たとえば、会社の人間関係で悩んでいる場合、苦手な人からの心ない言葉や態度によって仕事中に憂うつな気持ちや不安感などに心が支配されてしまうこともあるでしょう。そういう気持ちを溜め込んでいくと、心はどんどん疲弊していきます。

 

こういう場合、問題解決型カウンセリングでは、「感情をコントロールする心理療法」などのやり方をクライエントに伝えて、一人でも実践できるようにトレーニングをします。

生活のなかで嫌な感情に襲われたときに使える武器を伝授するのです。

 

また、問題解決型カウンセリングでクライエントに指導するのはひとつの心理療法だけではありません。

状況や原因、症状によって使い分けられるように、「トラウマを乗り越えるための心理療法」や「自分を変えるための心理療法」など、クライエントに必要なさまざまな武器を伝授していきます。

 

結果、生活のなかでの困りごとをその場、その場で解決できるので、気持ちが楽になりますし、悩みや問題も徐々に解消できます。問題解決型カウンセリングでは、クライエントが自分で自分をカウンセリングして癒す方法、つまり「セルフ・カウンセリング」の技術を身につけられるというわけです。

 

 

月に1〜2回、カウンセラーによるカウンセリングを受けるのと、毎日、自分で自分をカウンセリングするのでは、どちらに即効性があるか。それは、火を見るより明らかでしょう。

さらに一般的なカウンセリングの場合、根本的な心の問題を解決するためには、クライエント自身が原因や解決法に「気づく」のを待たなければならないので、その分、時間がかかります。

一般的には半年から1年、人によっては5年以上かかることもあります。

 

一方、問題解決型カウンセリングは、当然、人によってばらつきはありますが、平均すると3〜6か月、面会の回数でいうと5回前後で完了します。

 

 

初回のカウンセリングでまず行うのは、対話による一般的なカウンセリングです。

ここで、クライエントに自分のなかにある不安や不満を吐き出してもらい、その人がどんなことに生きづらさを感じているのかを聞き出しつつ、カタルシス効果で心を癒やします。

 

そのうえで2回目以降、心理療法という武器をひとつずつ増やしていき、より積極的にクライエントが抱える心の問題を解決していきます。

そこでも、まずは表面的な苦しみを取り除く心理療法を指導するところからはじめて、クライエントの心の状態を改善していく心理療法を段階的に教えます。このようなプロセスを踏むことで、人の心理はスムーズに変化します。

 

なぜこのように段階を踏むのかというと、人が行動を起こす動機は大きく2つに分類できるからです。

1つは「今の苦しみから逃れたい」

もう1つは「今よりもっと気分がよくなりたい」というものです。

 

カウンセリングを受けにくるような、生きづらさを抱えた人は、最初は、「とにかく現状をどうにかしたい」という思いしかありません。そこで、まずは苦しみを軽くして、マイナスの状態をゼロに戻すことが大切です。

そうすると、自然に「人づき合いがうまくなりたい!」「自分を好きになりたい!」など、「もっとよくなりたい!」という気持ちがわいてきます。

そこですかさず、そういった願望を叶えるための心理療法を実践すれば、自分の心の状態をプラスへと向上させることができます。

私の元にやってくるクライエントの半分は、精神科の治療を受けていたり、薬を服用していたりしている心の病を抱えている方です。

それでも、なんとか日常生活を送れている方であれば、問題解決型カウンセリングで段階的に心理療法を行うことで、ほとんどの方は症状が改善しています。結果、薬をやめられた方も少なくありません。

 

つまり、薬の代わりに心理療法を日常生活に取り入れることで、薬を減らしていこうということです。数種類の心理療法を習得することができれば、さまざまな場面やその時々の状態で活用することができるようになります。

 

問題解決型カウンセリングは、精神科のカウンセリングでは、あまり効果を感じられなかったという方や「いつまで薬を飲み続けなくてはいけないんだろう」と悩んでいる方にも有効な手段と言えます。

②問題解決型カウンセリングの仕組み
 

問題解決型カウンセラーの役目とは?

「催眠療法の父」と呼ばれる天才的な心理療法家であり、精神科医のミルトン・エリクソンは、カウンセラーの役割についてこう述べています。

「私たち心理療法家(カウンセラー)の役割は、最初のピストルを鳴らすことだ。

自然に走り出すのを見守っているだけでもなく、

ゴールテープをきるまで一緒に走っていくわけでもない」

カウンセラーとは、クライエントが走り出せるように合図をするスターターのようなもの。つまり、行動を起こすのも、問題を解決するのもクライエント自身です。クライエントの話を引き出して、受け入れ、共感することで、そのお手伝いをするのがカウンセラーの役目ということです。

これは、問題解決型カウンセラーについても同じです。

 

しかし、問題解決型カウンセラーの場合、クライエントの話を聞くだけでなく、その人に合った心理療法を提案・指導し、いっしょにトレーニングを行ったりして、一般的なカウンセラーよりも、積極的にクライエントの回復にかかわることになります。

 

例えるならば、スターターというより、「子どもに補助なし自転車の乗り方を教える親」のほうが近いかもしれません。

後ろで転ばないように支えながら、乗り方のアドバイスをしたりしますが、実際にペダルをこぐのは自転車に乗っている子ども本人(クライエント)です。練習していくうちにコツがわかってきたら、親(カウンセラー)はこっそり手を離し、子どもが自分の力だけで自転車に乗れるようにします。一度乗り方を覚えてしまえば、子どもはいつでも、どこでも自転車で走ることができます。

 

同じように、さまざまな心理療法を教えて、クライエントが必要なときにいつでも「セルフ・カウンセリング」できるようにサポートするのが、問題解決型カウンセラーの役目なのです。

 

一方で、カウンセラーと似たような職業には、コンサルタントや、コーチがあります。これらとカウンセラーとは、どう違うのでしょうか。

 

コンサルタントとは、特定の分野における専門的な知識や経験を生かして、クライアントの問題点を客観的に探り出し、アドバイスや指導を行う専門家のことです。おもなクライアントは企業です。

 

ではコーチはというと、実は用いる手法はカウンセラーとあまり違いはありません。けれどもその目的や役割に違いがあります。

カウンセリングの目的はクライエントの癒やしや回復で、そのサポートをするのがカウンセラーの役目ですが、コーチングの目的はクライエントの目標達成です。コーチにはクライエントが主体的に考え、目標達成に必要な行動ができるように支援する役割があります。

 

たとえば、海辺におなかを空かせた子どもがいたとします。その子どもに対して魚を獲って、与えてあげるのがコンサルタントです。

 

一方、釣り竿を与えて魚が釣れるまで待つのがカウンセラーで、「1日20尾釣って、それを売る」などと目標を明確にしたうえで釣り竿を与えるのがコーチです。

では問題解決型カウンセラーの場合はどうかというと、カウンセラーとコーチの中間ぐらいの役割といえます。

 

癒やしや治療も目的ですが、さらにクライエントの「もっと良くなりたい」「変わりたい」という気持ちを引き出し、その目標を達成できるようにサポートするからです。そのために、クライエントにさまざまな心理療法を伝授します。

 

海を目の前におなかを空かせた子どもに対して、釣り竿だけでなく、船や網、銛、罠など、さまざまな釣りの道具を与えるのが、問題解決型カウンセラーなのです。

 

 

ちなみに、私のような問題解決型カウンセリングを行うカウンセラーは、決してメジャーではなく、私の知る限り、ほとんどいません。問題解決型カウンセラーになるには、さまざまな心理療法を理解し、そのノウハウを身につけなければならないので、非常に時間がかかります。

 

しかし、だからこそ、その人にあったオーダーメイドの心理療法を提供し、短期間でクライエントの苦しみに寄り添い、癒していくことができます。しかも、クライエントに心理療法のやり方を伝えて、実践してもらうなかで、本人が自分で心をコントロールすることが可能になります。

 

最終的にはカウンセリングがいらない状態が望ましいわけですし、早期に、根本的に問題を解決することが、カウンセラーにとってもクライエントにとっても、望ましい関係なのです。

 

 

カウンセリングで大切なこと

問題解決型カウンセリングの目的は、クライエントが自分で問題を解決したり、目標を達成できたりするようになることです。簡単に言えば、クライエントの「自立」がゴールとなります。

そのため、クライエントがカウンセラーに対して、過度に依存しないよう工夫する必要があります。具体的には、こちらがああしなさい、こうしなさいと指示するのではなく、意識的に選択・決断をする機会を多く作っています。

 

「自分で課題を決める」のも、クライエントの自立を促すためです。

課題の内容はその時々で異なりますが、重要なのは「自分で決めたことを自分でやる」ことです。

それは「朝起きたら、すぐに窓を開けて朝日を浴びる」「出社したらまず机の上をきれいにする」「お風呂上がりにストレッチをする」など、どんな小さなことでもかまいません。

新しいことを始めるのでもいいですし、「ペットボトルのお茶を買うのをやめる」「1週間に1回だったランニングを2回にする」など、今までやっていたことをやめるのでも、頻度を増やすのでもOKです。

大切なのは、自分で課題を決め、それを実行すること。これを繰り返すことで、クライエントの自立心は高まります。

 

また、課題をクリアするためには、今までと違う行動や思考が求められるので、無意識に続けてきた思考パターン、行動パターンを崩すことができます。

同じ考え方、行動を続けていれば、結果は今までと変わりません。反対に、パターン化していた思考や行動を変えれば、必ず、変化は表れます。

たとえば、課題が達成できなかったとしても、「どうすれば課題をクリアできるだろう」「次はどんな課題にしよう」などと、前向きな思考が自然に生まれたりします。

課題という新たな習慣が刺激となって、自分を変えやすくなるのです。

 

 

 

 

③問題解決型カウンセリングが「生きづらさ」に効く理由
 

過去の人間関係で繰り返すパターンを知る

私のカウンセリングを受けにくるクライエントの多くは、「人とうまく付き合えない」「人に依存してしまう」「親(または夫)との関係に問題がある」など、生きづらさを感じています。そういう生きづらさを感じている人たちには、ひとつの共通点があります。それは、いつも自分を責めていること。

 

「私が生きづらいのは、自分が悪いせいだ」と思い込んでいます。

上司にいつも辛く当たられるのも、夫婦関係がうまくいかないのも、恋愛に依存してしまうのも、すべて私の性格のせいだ、自分の存在に問題があるんだ・・・そんなふうに自分を責めていたら、生きていて苦しいのは、当たり前です。

 

けれども、我々が生きづらさを感じてしまうとき、それはその人がもともと持っている人間性や個性のせいではありません。その原因は思考や行動にあります。

人には、知らず知らずに植え付けられてしまった思考パターンや行動パターンがあり、それが生きづらさにつながっていることがほとんどなのです。

 

たとえば、「目上の人を前にすると、萎縮してしまう」という人はいませんか? これも思考・行動パターンのひとつです。

「自分より立場が上の人とは、目も合わせられず、自分の意見を伝えられず、『はい』ということしかできない」というパターンができてしまっていれば、直属の上司、職場の先輩、取引先の社長など、相手が変わっても、条件反射のように同じ対応をしてしまいます。これが「上司からのパワハラ」「仕事が続かない」といった悩みの原因になっていることがあります。

 

中には「怒りや悲しみというマイナスな感情は悪いものだから、表に出さない」というパターンができている人もいます。そういう人は感情を抑え込むあまりストレスがたまりますし、誰にも自分をさらけだせず孤独感を感じるようになることもあります。

 

同じ思考や行動を続けている限り、そこから生まれる結果は同じです。転職しても、つきあう人を変えても、同じような生きづらさを感じることになります。

それを解消するには、自分が繰り返してしまっている思考パターン、行動パターンを見つけて、崩す必要があるのです。

 

そこで問題解決型カウンセリングでは、初回のカウンセリングで、クライエントに小学生のころから今までを振り返って、どんな人とかかわり、どんなふうに過ごしてきたか、つらかったことや楽しかったこと、夢中になったことなどを、順を追って話してもらいます。その時間は30分〜1時間くらい。

そのなかで、「そういえばこんなことがあった」「こんな気持ちになったな」などと、これまでの自分の気持ちや言動、経験が整理されていくと、クライエント自身が自分の根底にある思考や行動のパターンに気づきます。

 

さらに、なぜ、そのようなパターンが植え付けられてしまったのか、その根本的な原因も見つけられます。

たとえば、「目上の人に萎縮してしまうようになったのは、母親のしつけが原因だったんだ」「怒りや悲しみを抑え込むようになったのは、小学校のとき友だちとケンカして仲間はずれにされたことが原因だったんだ」などと思い至るのです。

 

生きづらさの原因が、自分の性質や本質といった変えられないものではなく、後から作られた思考や行動であることがわかるだけでも、意識は前向きになります。

 

後から作られた思考や行動は、壊してすてることも、作り変えることもできます。そうすれば、今抱えている生きづらさから、自分を開放できるのですから。

思考や行動パターンを崩したり、その大元にある過去のトラウマを解消したりするための心理療法については、5回前後のカウンセリングの中で、段階を踏んで行っていきます。

 

ただ、自分だけで自分の心の奥にある根本的な原因を探るのは、簡単ではありません。人の心理はとても複雑で、本人でさえ自分の本当の気持ちがわからないことも多いからです。

 

たとえば、人の感情の難解さがよくわかる心理現象に「投影」があります。

投影とは、自分の潜在的な性質や感情を認めたくないとき、相手を絶対的な悪として非難することによって、自分の欲求はみないようにする行為です。

 

たとえば、「男性に甘えるのなんてもってのほか、自分の人生は自分で切り開く!」といった自立心の強すぎるキャリアウーマンがいたとします。

そんなキャリアウーマンが、甘え上手なキャピキャピした女性社員を見て、恨みや憎しみのような何とも言えない複雑な感情が出たり、「顔も見たくない」「あんな社員は会社の害虫」だと言って攻撃対象にすることがあります。

そのような感情や、行動にまで起こすような状態であれば、「投影」を疑ってみてもよいかもしれません。もしかしたらその人の心の奥底には、「甘えたい」「頼りたい」といった欲求が強くあったりします。

 

ただ、普段は光の当たらない影の部分ですので、なかなか認められず、無自覚な心理現象ですから、本人も自分の本当の気持ちには気づきません。

 

投影はあくまでひとつの例ですが、表に見えている思いがすべてとは限らないのが、人間のややこしいところです。だからこそ、カウンセラーが必要なのだと思います。

さまざまに絡み合った感情や思いをときほぐし、整理して、深層心理を探るお手伝いをするのがカウンセラーの仕事です。それによって、クライエント自身も気づかなかった気持ちや思いに気づくことができれば、それが、回復の第一歩となります。

 

 

人生最大の質問「私は、本当はどうなりたいのだろう?」

生きづらさを自分のせいだと考えてしまう人の頭の中では、常にこんな問いがうずまいています。

「どうして自分はこんなにダメなんだろう」

「なぜ人に好かれないんだろう」

「私のどこが悪いんだろう」

こんな答えの出ない(もともと答えなどない)問いであっても、私たちの心は無意識に答えを出そうとします。自分がダメな理由や人から好かれない理由、自分の悪いところを探してしまうのです。常に、自分の欠点を探し続けるようなものですから、苦しいはずです。

しかし、自分を追い詰めるこういった問いは、自分自身でつくり出した思い込みでしかありません。

 

そこで私は、カウンセリングの1回目、または2回目に、クライエントにこんな質問を投げかけるようにしています。

 

「あなたは、本当はどうなりたいのですか?」

 

これは、人が生きていくうえでの意味や目的を問うような、人生における根本的な質問です。日常生活のなかでこんな質問をされることはありませんし、自分自身で改めて考えることもほとんどないでしょう。まして、現状がつらくて、そこから抜け出したいと考えている人にとっては、まったく頭の中にない問いです。

 

けれども私たち人間は、問いが投げかけられれば、必ず答えを出そうと深層心理が働く生き物です。これまで考えてもみなかった「私は、本当はどうなりたいのだろう?」という問いであっても、どうにか答えを出そうとします。

それが、自分がダメな理由ばかり探していた思考パターンを変えるきっかけになります。

 

私は、クライエントにこのように說明します。

「この質問の答えは、すぐにみつからないかもしれません。答えが出るのは、1年後かもしれませんし、10年後、あるいはもっと先かもしれません。答えが出なくてもいいですから、この質問を頭の片隅において生活してみてください。

そして、もし、答えらしきものが思い浮かんだら、ノートにメモしたり、スマホに記録したりして、それを次のカウンセリングのときに教えてください」

「私は、本当はどうなりたいのだろう?」という問いは、常に心に留めておいて、長い時間をかけて答えを探すことに意味があります。

 

なぜなら、この質問を考えているときは、ダメな自分やつらい現状から意識がそれるので、苦しさがやわらぐからです。今まで苦しさのレベルが10だったとしたら、少なくとも、9や8まで下げることができるでしょう。

 

さらに、「こんなふうになりたい」「○○を手に入れたい」など、自分のなりたい理想像を言語化して記録していくと、意識はつらい現状から、明るい未来へと切り替わります。「なりたい自分になった状態」を想像するだけでも気持ちが軽くなりますし、「自分を変えたい」「自分を変えるためにはどうすればよいだろう」と前向きな思考を生むきっかけにもなります。それが、問題解決型カウンセリングに臨むモチベーションを向上させ、効果を高めることにもつながります。

 

「心のストレッチルーム」
前田 泰章

 

[参考文献]

『「なんとなく生きづらい」がフッとなくなるノート』はじめに・第1章 著:前田泰章(クロスメディア・パブリッシング)


【第2章以降の目次】

第2章 自分の心理状態を確かめる
①感情のしくみを理解する
・なぜ書き出すと気持ちが整理されるのか?
・悩んでいる人の思考パターン 
・「書き出す」ときのポイント 
②問題の捉え方を変える
・問題を縦に並べると、整理しやすい 
・思い通りにならないことがある人は〇〇していない 
・自分の問題と相手の問題を線引きする 
③気分をコントロールする
・人が最終的に手に入れたいものは「気分」 
・「気分」を先取りする方法 
・脳を不快から快へ 

 

第3章 自分の感情をコントロールする
①心のハードルを取り除く「白黒思考改善療法」
・なぜ「お先真っ暗」に不安を感じるのか
・白黒思考改善療法の実践方法
・「これくらいならできそう」という見込み感が行動を起こす第一歩
・「ネガティブ=悪」ではない!
②不安を切り離す「フォーカシング療法」
・身体の感覚を通じて、心の声を聞く
・フォーカシング療法の説明
・フォーカシング療法の実践方法
③ネガティブな感情を減らす「イメージ療法」
・人は出来事に苦しんでいるわけではない
・NLPを実践したBさんの事例
④憎い相手と決別する「ダイナマイト爆破療法」
・相手との関係を浄化する
・ダイナマイト爆破療法の実践方法

 

第4章 重たい悩みはいったん外に出す
①「〇〇依存」から抜け出す「心の配分調整療法」
・悩みの割合を「見える化」する
・心の配分調整療法の実践方法
・「唯一の悩み」の罠
・【番外編】スマホ依存症の対処法
②トラウマを書き換える「ダビング療法」
・記憶を書き換える
・ダビング療法の実践方法
・ダビングの効能
③理想の人間関係をつくる「階層化療法」
・どうしても愛せない人間はいるもの
・階層化療法の実践方法
・自分の本音を確かめる
④自分を客観視する「イメージワーク療法」
・ウォルト・ディズニー御用達の心理療法
・イメージワーク療法の実践方法
・自分をイメージに変換する理由

 

第5章 内面から自分を変える
①小さな行動を起こす「サクセスストーリー療法」
・自分のサクセスストーリーを思い描く
・サクセスストーリー療法の実践方法
・行動パターンを変えるコツ
・調子がいいうちに備えておく
②思い込みから抜け出す「パーミション療法」
・自分自身に許可を与える
・パーミション療法の実践方法
・パーミションのコツ
③自分自身と向き合う「3つの質問療法」
・3つの質問療法の実践方法

 

おわりに
【ダウンロード特典】問題解決型カウンセリング ワークシート
参考文献

 

書籍『「なんとなく生きづらい」がフッとなくなるノート』
(クロスメディア・パブリッシング)
https://amzn.to/2YMirML

プロフィール

 

前田 泰章

(まえだ やすあき)

 

問題解決型カウンセラー、著述家

 

1976年生まれ、埼玉県出身。日本体育大学卒業後、ファミリーレストラン店長、キャリアコンサルタント、中学校教諭を経たあと、原因不明の目の病気になり妻子を抱え失業。専業主夫を2年間経験し、心理療法と出合い2010年、元教師としての経験を活かし、「教師の悩み専門」のカウンセリング「心のストレッチルーム」(埼玉県川越市)を開業。その後、「不登校の子どもを持つ親御さん」を対象としたカウンセリングをおこなう。

 

現在は、「カウンセリング」とさまざまな「心理療法」のメソッドを組み合わせた「問題解決型カウンセリング」を開発・実践し、人間関係の悩み、うつ病、適応障害、社会不安障害、依存症などを薬に頼らないで、通常なら半年~1年かかる症状を5回前後のカウンセリングで解決に導いている。

 

著書には、カウンセリングの現場でクライエントに伝授している心理療法の技法をまとめた、『「なんとなく生きづらい」がフッとなくなるノート』(クロスメディア・パブリッシング)があり、台湾でも翻訳され発売。

東洋経済オンライン、週刊女性プライム、小五教育技術(小学館)、新聞、電車内で取り上げられるなどして、ロングセラーとなっている。

 

 

*西武池袋線(池袋~飯能)にて掲出

 

 

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【心のストレッチルーム】
代表:前田泰章(まえだ やすあき)
URL: https://www.kokoro-str.jp
TEL: 090-2239-0336
(月~日 受付 7:00~21:00)
MAIL: kokost@ksh.biglobe.ne.jp
〒350-1123 
埼玉県川越市脇田本町10-17 

伊勢原七番館804号室
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