今回のメールレターでは、
僕のカウンセリングの悩みで多い、
AC(アダルト・チルドレン)について
お話ししたいと思います。
今までのメールレターと比べて
少し長い文章ですので、
時間のあるときにお読みくださいね。
アメリカのアダルト・チルドレンは、
明らかに親の虐待、暴力を受けて
育ったという、
誰が見てもよくわかるケースが多いのですが、
日本のアダルト・チルドレンの場合は、
家族間のウエットでソフトな
愛情による支配を受けてきた、
きわめて分かりにくいケースが多いのです。
アダルト・チルドレンはもともとは、
アダルト・チルドレン・オブ・アルコホリックス
(Adult Children of Alcoholics=ACOA)
が語源で、
「アルコール依存症の親のもとで育って成人した人」
という意味です。
このACOAのOAを省き、
略して「AC」と言っています。
日本では、
アルコール依存症ではないけれど、
ギャンブル依存症、仕事依存症など
同じような嗜癖を持っている
親のもとで育った人も含めて、
機能不全家族で育った人
(Adult Children of Dysfunctional Family=ACOD)
をアダルト・チルドレンと呼ぶようになっています。
ACの対象が広がったのです。
アルコール依存症本人ではなく、
そのような親のもとで育つ子どもへの注目は、
アルコール依存症の治療の発展と共に生まれました。
もともとアルコール依存症は、
大酒飲みの「困り者」として扱われてきました。
そのうちに、
アメリカで禁酒法が制定され、
「犯罪者」として扱われるようになりました。
そしてさらに、
これはアルコールに対する
コントロールの喪失であり、
疾病であるとみなされるようになったのです。
治療モデルとしては、
「司法モデル」から「医療モデル」への
変化であり、
刑務所から精神病院へと収容場所が変わったのです。
しかし、
「出たら、また飲む」という実態は
一向に変わりなく、
精神医療従事者の間を無力感が支配していました。
このような事態が大きく変動したのは
自助グループの登場がきっかけです。
アルコール依存症の本人たちが
今日1日アルコールを飲まないことだけを
目的に集まって自分のことを語ります。
それを毎日積み重ねていくだけで、
断酒が維持継続されていくという事実は
専門家にとっては衝撃でした。
これはある意味で
医療の敗北でもあったのですが、
専門家たちはこれを巧妙に
治療に取り入れていきました。
つまり、
アルコール依存症を
「人間関係障害」として認知したのです。
このように医療モデルの限界認知から
生まれたのが「関係モデル」です。
このような「関係」への注目によって、
また家族をシステムとしてとらえる
「システム家族論」の影響もあって、
アルコール依存症者の家族関係への
治療の焦点は拡大していきました。
当初から医療モデルに
収まりきらない病気であったため、
治療においても医者以外の
医療従事者の役割は大きいものがありました。
この人たちはまず
アルコール依存症者の妻に注目しました。
そこで生まれた言葉が「共依存」です。
このようにアルコール依存症本人、
そして共依存の妻という
カップルの関係が明確になって、
初めてその二人の間で成長する
子どもの問題が注目されるようになったのです。
●ACに気づく3つのポイント
カウンセリングを
12年間おこなってきて感じたことは、
生きづらさを抱えている
クライエントのほとんどは、
親との関係に何らかの問題がありました。
表面的な悩みはそれぞれですが、
カウンセリングが進み突き詰めていくと、
親から暴力を受けていたり、
父親がアルコール依存性だったり、
母親の干渉が強かったり、
父親の家庭内での存在が薄く
情緒的なつながりがなかったり、
機能不全家庭の中で子ども時代を
生き延びてきたクライエントが多くいました。
僕はアダルト・チルドレン(AC)を
「現在の自分の生きづらさが、
親との関係に起因すると認めた人」
と定義づけています。
この定義には3つのポイントがあります。
(1)性格ではなく親との関係
生きづらさというものは、
従来であれば自分の性格か、
ものの考え方のためであるといった
理由に落ち着いていました。
あるいは、
社会体制や政治などによるものであり、
社会が変わるべきだと、
社会変革の必要性と結びつけられたりもしていました。
しかし、
生きづらさを自分と社会という
二極化のいずれでもなく、
「親との関係」に起因すると認めるのです。
けれども、
このように親に対するマイナスの感情を
容認することは決してたやすくありません。
それはわが国に根強い
「親孝行」の価値を揺るがすものであり、
また「親の愛」「母性愛」
が現実には何であったのかという
神話の解体でもあるからです。
親を悪く言うことは
わが国ではまだまだタブーなのです。
このような親子関係にまつわる
タブーを超えてまで、
自己の生きづらさのルーツをたどろうとする
勇気を持つ人がACなのです。
(2)親との関係に起因する
「私が生きづらいのは、
親の愛情が足らなかったのが原因だ」
と考えれば、
原因としての親を責め、
攻撃し、
親が謝ればいいことになってしまいます。
それは単純な因果論です。
しかし、
因果論に基づく犯人捜し、
攻撃からは何も生まれません。
これは第1のポイント
「親との関係」と関連してきます。
親が果たして実際に
どうであったかという客観性を
問題にするのではなく、
あくまでも自分との関係における親、
自分からみた親がポイントなのです。
「私にとっての親との関係が苦しかった」
という心的事実が問題なのです。
親との関係を、
自分の生きづらさの多くの要因のうちの
主たる要因と認めることなのです。
これを原因とはとらないでください。
親が原因だとすると、
結果である今の苦しみをなくすには、
原因である親を変える必要が出てきます。
親を責め、
親を攻撃すれば問題が解決する
といった誤った思い込みが生じます。
あくまでも起因と考えてください。
(3)自己認知・自己申告を基本とする
自分の生きづらさをたどっていくと、
親との関係に行きつくことを
自ら認めた人がACなのです。
症状の有無、
チェックポイントによって、
他者が判定したり診断する言葉ではありません。
外見は何も問題がなく、
社会的に恵まれていても
「私はAC」と認める人はACなのです。
よくこの点を無視して
勝手に診断名やレッテルのように
使われることが多いようですが、
これは残念なことです。
自分のアイデンティティは、
他人に決めてもらうのではなく、
自分で決めるという、
当たり前のことが基本なのです。
「ACという言葉に出会って
自分の中にあった謎が解け、
ジグソーパズルのピースが収まった感覚を持ち、
楽になった」
と感じる人たちは、
自分にとって必要なアイデンティティとして
ACと自己認知したのです。
治療者が与えるものではなく、
チェックポイントで自己診断するような
症状群でもありません。
「私はACだ」と感じたら、
そうなのです。
自分で気づいて、
自分がそう思えば、立派なACなのです。
●自分を変えられるという希望
アダルト・チルドレンというコンセプトは、
従来の心理学や精神医学の
コンセプトと比較して
どのような特徴があるのでしょうか。
(1)ACは肯定の言葉
自分が苦しいのであれば、その苦しさを認めます。
このように「心的事実」
主観から出発するのです。
自分の感じたこと、
主観を肯定するのです。
ACは自分が生きづらいと感じた
主観を肯定し、
さらにACと自己認知して
楽になったことをも肯定するのです。
自分の悪いところを探し
否定するような従来の
心理学用語とはひと味違います。
私たちは、
体の病気に対しての検査方法が
進歩するに従って、
自分の感覚についても
権威や客観的方法に頼り過ぎては
いないでしょうか。
このように、
自分の感覚、主観にもとづいて
自己申告をしたことは肯定されなければなりません。
ACは肯定言語なのです。
(2)ACは免責の言葉
ACと自覚した人たちは
機能不全の家族の中で、
問題も起こさず、
病気にもならないで生き延びてきたのです。
そのサバイバルの過程で
身につけた感じ方、認知の方法、
対人関係の作り方が、
原家族を離れてからは、
逆に周囲との違和感や不一致に
つながってしまうという
逆説(パラドックス)が生まれます。
それはその人が悪いわけではなく、
むしろ敢闘賞に値するものなのです。
自分の生きづらさは
自分の責任ではないこと、
親との関係を生き延びるために
身につけたものが、
皮肉にも現在の自分を苦しめていることを、
ACという言葉は示しているのです。
それは、
「あなたに責任はない」
という優しさがこめられているのです。
(3)変わるという希望がある
生きづらさが、持って生まれた性格ではなく、
生まれ育った家族の中で
生き延びるために学習されたものによるならば、
それは学習しなおせば変わることができるはずです。
対人関係の作り方や、
さまざまな感じ方、認知の方法などは
原家族で育つ中で知らず知らず身につけてきたのです。
そのことに気づき、
自分のパターンの特徴を知ることで
それを変えることもできるでしょう。
逆に気づかなければ
それを変えることはできません。
これは、自分は「変わらない」から、
自分は「変わることができる」へと
変化の希望を与えるものです。
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今回の内容は、
以下の書籍を参考にさせて頂きました。
ありがとうございます。
「夫婦の関係を見て子は育つ」著:信田さよ子(梧桐書院)
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