NLP(神経言語プログラミング)

NLP(神経言語プログラミング)は、催眠療法のミルトン・エリクソン、ゲシュタルト療法のフリッツ・パールズ、家族療法のバージニア・サティアという3人の天才心理療法家のセラピーのテクニックを誰にでも再現できるようにモデル化したものです。

 

1970年代にジョン・グリンダーとリチャード・バンドラーによって創始され、アメリカをはじめ世界各国でセラピーとコミュニケーションのテクニックとして広まっています。

●今までの心理学:人の病理に注目

★NLP:優れた人のパターンに注目
良い結果を出せる人と出せない人とでは何が違うのか?
違いを生む違いに注目。
優れた人の行動パターン、思考パターンを体系化したのがNLP

いくらNLPといえども、これから紹介するすべての方法が、すべての人に効果があるわけではありません。これから紹介する方法のうち、あなたに合ったものを見つけて、それを継続的に用いてください。

効果のなかった方法は、きっぱりあきらめて、効果のあった方法だけを継続して行うのがコツです。

 

記憶や感情を自在に操るテクニック

●サブモダリティ・チェンジ
「物事を暗く考えてしまう」「周りの人たちが自分の悪口を言っているような気がする」このような悩みを誰でも一度は持ったことがあるのではないでしょうか?

 

心理学や自己啓発の本を読むと、表現の仕方はさまざまですが、どれも言っていることは、「明るく考えろ」「他人の言うことなんて気にするな」といったことばかりで、著者の自慢話を長々と読まされるはめになります。

 

NLPを使ったセラピーでは、「物事を暗く考えてしまう」という人に、こうアドバイスします。

「あなたが暗く考えてしまう事を映像としてイメージしてみてください。そして、その映像をキラキラ明るくしてみてください」これで、気持ちも明るくなるのです。

 

「周りの人たちが自分の悪口を言っているような気がしてしょうがない」という人には、次のように言います。

「その人があなたのどんな悪口を言っているか、その声をイメージしてください。そして、その声を早回しにして、トーンを上げて聞いてみてください」そうすると、とても滑稽な感じになって嫌な幻聴に惑わされることはなくなります。

 

このようにNLPでは、心の有り様をあれこれ変えるのではなくて、イメージを変換することによって、心を変えてゆきます。

 

同じ辛い体験をした人でも、その出来事を今現在も引きずって苦しんでいる人と、過去として清算している人とでは、記憶の内容にどのような違いがあるでしょうか?

 

辛かった過去の思い出を思い浮かべてください。その場面にあなたの姿が映っていますか(傍観者として見ている)、それとも過去のあなたの目でその世界を見ていますか(当事者として見ている)もし、当事者として見ていたら、傍観者として見直してみてください。

当事者として見ていたときと比べて辛さはどうですか?傍観者として見ているほうが、辛さを感じないはずです。

 

このように、辛かった過去を未だに引きずっている人は、記憶の中で当事者として今現在もその時の辛さを感じ続けているのです。

 

反対に辛かった出来事を過去として清算できている人は、記憶の中で当時の自分を傍観しています。つまり、もう他人事になっているのです。
それなら、「イメージを傍観者に変えて記憶し直せば、辛さがなくなるのではないか」と、NLPでは考えます。

 

視覚、聴覚、身体感覚は、実際にはさまざまな感覚要素からなっています。

 

例えば、視覚であるなら、当事者として見ているか傍観者として見ているか、カラーか白黒か、明るいか暗いかなど、多くの要素からなります。

これらの要素をNLPでは、「サブモダリティー(付属要素)」といいます。

 

私たちは、実際に見たとおり、聞いたとおりに、記憶しているわけではありません。
嫌なことは実際に見ていた映像より暗くして記憶しています。心に残る声は、エコーをかけて記憶しています。

 

通常、「明るく、色鮮やかで、大きい、当事者として体験している」と視覚イメージの印象は強くなります。だから、楽しい場面の記憶は、当事者として、明るく・カラーで・映像を大きくすると、楽しさがより強くなります。

 

聴覚イメージの場合は、「やさしい声」は安心感と説得力があり、「大きな声」は恐怖を催したり士気を高め、「低く小さな声」は不安をあおります。

例えば、父親の怒鳴り声を小さな優しい声に変えることで、父親に対する恐れを弱めることができるのです。

つまり、体験の内容よりも、その体験をどのようにイメージとして脳の中に再構築して記憶しているかが、感情に影響を与えているのです。

そして、体験の印象を大きく左右しているのは、サブモダリティーの中のたったひとつの要素です。
ですから、たった一つのサブモダリティーを変化させるだけで、物事に対する印象を変化させることもできるのです。

一度体験したことは脳に記憶され、その記憶を脳から消すことはできません。

しかし、私たちは、その体験そのものに反応するのではなくて、その体験がどのような印象として捉えられて脳に記憶されているのか、その印象に反応しているのです。

 

つまり、記憶は消すことはできませんが、その体験の記憶のサブモダリティーを修正することで、その出来事に対する感じ方を変化させることができるのです。

 

NLPのテクニックを身につければ、過去の辛い出来事を思い出すことを恐れることはもうなくなります。

辛い事を思い出したら、NLPのテクニックを用いて、それを明るく、心地よい響きに変えることができるからです。

 

ストレスを解消できるかできないかは、ストレスへの対処法(解消法)を知っているかどうかで決まります。

NLPのテクニックはストレス解消の簡単で有効な手段です。

 

 

NLP① 当事者から傍観者へ

NLPを使った感情のコントロール法を5つ紹介します。1つ目は、当事者から、傍観者へイメージを変換する方法です。

 

同じ出来事でも、当時者として体験しているか、そばで見ているだけかで、受ける影響の大きさはまったく違います。イメージの世界でも同様です。ある出来事を自分が体験しているようにイメージすると感覚は強まり、傍観者としてイメージすれば感覚が弱まります。

 

傍観者になれば、嫌な出来事も「他人事」になるので、つらさが薄れます。自分の悩みも他人事にしてしまえばいいのです。

 

たとえば、過去に元夫からひどいDV(ドメスティック・バイオレンス)を受けていたことがトラウマになっている女性の場合。頭上にスクリーンを思い浮かべ、そのスクリーンにその当時の様子を映像として映します。

それを現在の自分が、映画のワンシーンとして見ているとイメージします。現実ではなく、映画の中のことだとイメージすることで、傍観者となることができ、つらい気持ちを和らげることができます。

 

NLP② 暗いから明るいへ

「明るい未来」「お先真っ暗」という言葉があるように、明るさは感情に大きな影響を与えます。「天気がいい日は気分も晴れ晴れしますが、天気が悪い日は、気持ちが暗くなる」ということは、多くの人が体験しているでしょう。

 

イメージの中の映像も、明るくすると、文字通り気分も明るくなります。

 

思い出すと気分が暗くなる出来事も、映像として思い出し、スマホで撮った写真を加工するように明るく変えてしまいましょう。

 

担任したクラスが学級崩壊した経験のある小学校教師のクライエントの場合は、今でも授業中に生徒が立ち歩いたり、おしゃべりをしたりしていて、まったく話を聞いてもらえなかったことを思い出してつらくなっていました。

そこで、そのつらかった場面を意識的に思い出し、その映像を徐々に明るくしていってもらいました。すると画面が光でいっぱいになり、真っ白に。

嫌な場面が見えなくなり、気持ちが少し楽になったそうです。

 

 

NLP③ 距離をとる(縁遠い人・親近感のある人)

縁を切りたいと思っている相手ほど、意識してしまいがちです。たびたびその人のことを考えて、気持ちが暗くなったり、苦しくなったりします。そんなときは、イメージの中で縁を切りたい相手の姿を、目に見えないくらい遠ざけていきましょう。

すると心の距離も離れていき、「縁遠く」なれます。相手のことがいちいち気にならなくなります。

 

反対に親しくなりたい相手は、イメージの中でその姿を自分に近づけることで、「親近感」が増します。

 

何をやっても揚げ足をとって、小言を言ってくる会社の先輩に困っている人の場合。

イメージのなかでその人を大砲の玉にくくりつけ、ドーンと遠くまで飛ばすと、気持ちがすっとしたそうです。遠ざける方法は、ロケットで飛ばしたり、急流に流したり、自分のやりやすいイメージでOKです。

 

 

NLP④音声を変える

同じ言葉でも、言い方によって受ける印象は大きく違ってきます。

たとえば、注意されるときに使う「こら!」という言葉。同じ言葉でも、大きな声で強く「こら!!」と言われたら怖いですが、やさしくやわらかな口調で「こ〜ら!」と言われたら、怖くないですし、逆に温かい気持ちにすらなるでしょう。

 

「やさしい声」は安心感と説得力があり、「大きな声」は恐怖を与えたり、士気を高めたりします。また、「低く小さな声」は不安をあおります。

 

実際、私たちはどんなとき、どのような喋り方をするのか考えてみると、安心しているときは、やさしい声で話しますし、驚いたときや怒っているときは大声を出します。不安で自信がないときは、低くボソボソと話すのではないでしょうか。

 

言葉と感情はリンクしているので、やさしい声で話せば、相手を安心させることができますし、自分自身も安心した気持ちになれます。

 

イメージの中でも、そこに出てくる登場人物の声のトーンや言い方を変えれば、受ける印象を大きく変えることができます。

 

たとえば、父親にいつも「ばかやろう!」と大声で怒鳴られ、それを思い出すたびにつらくなるというクライエントの場合。

怒鳴っている父親の姿をイメージし、そのなかで「ばかやろう!」という声を小さくしていって、やさしい口調へと変えていきます。すると、父親への恐怖心が和らげることに成功しました。

 

 

NLP⑤視点の位置を変える(目上の者・目下の者)

「目上の人、目下の者」という言葉があるように、視点の高さは自分と相手との上下関係を映し出します。

人に高いところから見下されると、威圧感を感じますし、反対に自分が高いところに立って人よりも視点が高くなると、気持ちも大きくなります。

 

たとえば、緊張症の人は人と話すとき少しあごをあげて目線を高くすると、気分が楽になります。
イメージの中だけでも目線を高くして相手を見下ろすようにすると、自分が相手と対等以上に感じられるようになり気分が楽になります。

自己評価が低い人などにおすすめです。

 

たとえば上司や取引先など、自分より立場が上の人と対面すると緊張して、思考が停止してしまう人の場合。

自分が相手を見下ろし、対話している映像をイメージすると、リラックスして話せるようになります。

 

ここまでNLPのやり方を5つご紹介しました。すぐに実践できるものばかりなので、気軽に実践してみてくださいね。

 

ただ中には、頭の中のイメージを変えようとしても、「現実に起こった出来事と違う」と違和感を感じてしまう人もいるでしょう。
そういう人はあまりこの方法は向いていないかもしれませんので、無理におこなう必要はありません。このような方法があることを知るだけでも、今後、何かしらの変化につながるはずです。

 

 

NLPを実践したEさんの事例

NLPは、いくつかの手法を複合的に利用しても効果があります。

Eさんの事例をご紹介します。

 

Eさんは、自分が経験したことではないにもかかわらず、2011年3月11日に起きた東北大震災の映像を思い出すと怖くて涙が止まらなくなるので困っていました。

家や人が津波にものすごい勢いで流されているイメージがしょっちゅう頭に浮かんできて、それをあたかもその場所で自分が目撃しているように感じてしまうというのです。

 

そこで、私は次のような手順でNLPを使ったイメージ療法を行ってもらいました。

①頭の上にスクリーンを思い浮かべ、そのスクリーンに津波のシーンを映し出してもらいます。それを映画のワンシーンとして自分が見ているとイメージし、当事者から傍観者へとイメージを変換します。

②海の水がすべて流れて、更地になったところをイメージしてもらいます。そこに花咲かじいさんがやってきて桜の種を大量にまきます。すると、たくさんの芽が出て成長し、立派な桜の木になります。

③桜が満開になって、スクリーンは桜のピンクでいっぱいになります。そのスクリーンをどんどん大きくしていきます。桜のほのかな香りも感じます。

④桜の木のまわりに小鳥や動物が集まってくる様子をイメージします。小鳥が枝に止まって、ちゅんちゅんとかわいらしい鳴き声を聞かせてくれます。桜の木の根元には猫が気持ちよさそうに日向ぼっこしています。そこにうさぎがぴょんぴょんとやってきます。

⑤画面からかわいい猫とうさぎが飛び出しきます。その猫とうさぎを抱っこしてあげて、そのふわふわやわらかい感触を感じます。

 
私が声かけ(ナビゲート)しながら、怖いイメージをどんどん明るく楽しいイメージに変換させていくことで、Eさんの気持ちはその場で楽になっていきました。

また、このようなイメージ療法を繰り返すことで、震災の映像を思い出すことも少なくなりました。

 

 

 

 

[参考文献]
西田文郎『一瞬で人生が変わる恩返しの法則』SBクリエイティブ
矢野惣一『癒されながら夢が叶う!問題解決セラピー』総合法令出版
前田泰章『「なんとなく生きづらい」がフッとなくなるノート』クロスメディア・パブリッシング