<目次>
問題解決型カウンセリングとは?
①一般的なカウンセリングとは違う、問題解決型カウンセリング
・カウンセリングとは、「対話による療法」
・問題解決型カウンセリングとは「カウンセリング×心理療法」
②問題解決型カウンセリングの仕組み
・問題解決型カウンセラーの役目とは?
・カウンセリングで大切なこと
③問題解決型カウンセリングが「生きづらさ」に効く理由
・過去の人間関係で、繰り返すパターンを知る
・人生最大の質問「私は、本当はどうなりたいのだろう?」
問題解決型カウンセリングとは?
①一般的なカウンセリングとは違う、問題解決型カウンセリング
カウンセリングとは、「対話による療法」
はじめてクライエント(相談者)にお会いするとき、私が必ず聞いていることがあります。
それはこんな質問です。
「カウンセリングについて、どんな印象がありますか?」
こう聞くと、ほとんどの方は、「よくわからない」「あまり知らない」とお答えになります。
カウンセリングという言葉は知っていても、実際、どんなことをするのか、どんな効果があるのかは知らないという人が多いのです。みなさんもそうではないでしょうか。
よく言われることですが、欧米諸国、とくにアメリカでは、自分たちで解決できない悩みや心の問題があったとき、カウンセラーに相談し、解決策を探すことはめずらしいことではありません。それは風邪になったら医師の診療を受けるように、当たり前のことです。
それにくらべて日本では、
「心の問題を人に話すのは恥ずかしい」
「気持ちの問題だから、自分で解決するしかない」
と考えがちで、心の不調があっても精神科や心療内科を受診することすらためらう人が多くいます。
ましてや自分からカウンセリングを受けようという人はほとんどいません。
これでは、カウンセリングやカウンセラーについての知識が少ないのは、当然のことです。
どんなものかわからなければ、カウンセリングを受けてみようという気持ちにはならないでしょうし、さらには「本当に効果があるの?」と疑いの目で見てしまうものです。
そういったカウンセリングに対する不安や心配を払拭するためにも、まずみなさんに知っていただきたいのが、一般的なカウンセリングの方法とその効果です。
カウンセリングとは、対話による療法です。
カウンセラーとクライエントが1対1で行うものもあれば、グループで行うものもあります。いずれにしろ、おもに言葉を使い、話し合いによってクライエントの問題や悩みを解決していきます。
ただし、「対話」とはいっても、そのメインは「聞く」ことです。
日本で一般的に行われているカウンセリングのほとんどは、傾聴(相手の話を積極的に聴くこと)と共感を重視します。
カウンセラーは少し質問をしたり、相づちをうつくらいで、ほとんど言葉を発しません。
このカウンセリングの技法は、
1940年代に、アメリカの心理学者カール・ランサム・ロジャーズが提唱した「来談者(クライエント)中心療法」が元になっています。
この療法では、「人間は誰でも潜在的に、自己成長・自己実現を達成する力を持っている」ものとし、心理的な療法を行う者はあくまでも脇役として、積極的なアドバイスや指示はせず、「聞き役」に徹することが大切だとしています。
このロジャーズの考えは、現在も、カウンセラーが示すべき態度・姿勢の基本とされています。
こう説明すると、当然、「話を聞いてもらうだけなのに、効果があるのはなぜ?」と不思議に思う方もいらっしゃるでしょう。
けれども、みなさんにもこんな経験はありませんか?
「仕事のことや人間関係のことでもんもんと悩んでいたけれど、家族に話を打ち明けたらすっきりした」
「仕事で失敗して落ち込んでいたけれど、友達に愚痴をきいてもらったら、元気が出てきた」
きっと、思い当たることがあるはずです。
人は、心のうちにある感情や思いを言葉にして吐き出すことで、気持ちが楽になったり、癒やされたりします。
これを心理学用語で「カタルシス効果」または「自浄作用」と言います。
カウンセリングにも、このカタルシス効果が期待できるのです。
加えて、カウンセリングの場は、クライエントの心の内を話すためだけに用意された特別な空間・時間です。
普段の生活では、なかなか自分の話だけをする時間はないでしょうし、聞き手はあなたの言動をすべて受け入れてくれるわけではありません。
「あなたが間違っているんじゃない?」
「自分はそうは思わない」
などと、否定されることもあるでしょう。
一方、カウンセリングの場合、時間の許す限り、あなたが話したいことだけを話せばいいですし、カウンセラーはそれをすべて受け入れ、肯定し、共感してくれます。これは日常にはない、非日常の空間と言えます。
だからこそ、「人には言えない悩み」や「漠然としたつらさ」を思う存分吐き出すことができます。誰にも言えないと心にしまっていたことを聞いてもらえるので、より大きなカタルシス効果が得られるのです。
また、カウンセリングを繰り返すなかで、自分の心の中の問題を言語化していくと、心の中が徐々に整理されていきます。客観的に自分を見られるようになっていくのです。
その結果、クライエントは今まで見えていなかった本当の気持ちや問題の原因に気づいていきます。最終的には、これからどうすればよいか、解決策を見つけていくこともできます。
問題解決型カウンセリングとは
「カウンセリング×心理療法」
こうした一般的なカウンセリングに対して、私が行っている「問題解決型カウンセリング」とは、その名の通り、より積極的に、短期間で問題を解決に導くカウンセリングです。
簡単に說明すると、カウンセリングと、さまざまな心理療法を組み合わせた療法です。
心理療法とは、薬や、熱や光といった物理的なエネルギーを使うのではなく、対話やトレーニングなどを通して心の状態を改善するための療法で、心理学や医学を元に考案されています。
その種類はさまざまで、カウンセリングも心理療法の一種ですし、そのほか、催眠療法やブリーフセラピー、フォーカシング、NLP(神経言語プログラミング)、箱庭療法、音楽療法など100以上の療法があると言われています。
当然、それぞれに効果も違いますし、人によって合う・合わないもあるでしょう。
そこで問題解決型カウンセリングでは、一般的なカウンセリングを行った後、クライエントの悩みや性格に合わせたその他の心理療法を行います。
しかも心理療法を行うのは、クライエント本人です。
通常、心理療法はカウンセラーや心理セラピストと呼ばれる専門家のもとで行われますが、問題解決型カウンセリングの場合は、カウセリングという場を通してクライエントに心理療法を指導し、実生活のなかで活用できるようにします。
たとえば、会社の人間関係で悩んでいる場合、苦手な人からの心ない言葉や態度によって仕事中に憂うつな気持ちや不安感などに心が支配されてしまうこともあるでしょう。そういう気持ちを溜め込んでいくと、心はどんどん疲弊していきます。
こういう場合、問題解決型カウンセリングでは、「感情をコントロールする心理療法」などのやり方をクライエントに伝えて、一人でも実践できるようにトレーニングをします。
生活のなかで嫌な感情に襲われたときに使える武器を伝授するのです。
また、問題解決型カウンセリングでクライエントに指導するのはひとつの心理療法だけではありません。
状況や原因、症状によって使い分けられるように、「トラウマを乗り越えるための心理療法」や「自分を変えるための心理療法」など、クライエントに必要なさまざまな武器を伝授していきます。
結果、生活のなかでの困りごとをその場、その場で解決できるので、気持ちが楽になりますし、悩みや問題も徐々に解消できます。問題解決型カウンセリングでは、クライエントが自分で自分をカウンセリングして癒す方法、つまり「セルフ・カウンセリング」の技術を身につけられるというわけです。
月に1〜2回、カウンセラーによるカウンセリングを受けるのと、毎日、自分で自分をカウンセリングするのでは、どちらに即効性があるか。それは、火を見るより明らかでしょう。
さらに一般的なカウンセリングの場合、根本的な心の問題を解決するためには、クライエント自身が原因や解決法に「気づく」のを待たなければならないので、その分、時間がかかります。
一般的には半年から1年、人によっては5年以上かかることもあります。
一方、問題解決型カウンセリングは、当然、人によってばらつきはありますが、平均すると3〜6か月、面会の回数でいうと5回前後で完了します。
初回のカウンセリングでまず行うのは、対話による一般的なカウンセリングです。
ここで、クライエントに自分のなかにある不安や不満を吐き出してもらい、その人がどんなことに生きづらさを感じているのかを聞き出しつつ、カタルシス効果で心を癒やします。
そのうえで2回目以降、心理療法という武器をひとつずつ増やしていき、より積極的にクライエントが抱える心の問題を解決していきます。
そこでも、まずは表面的な苦しみを取り除く心理療法を指導するところからはじめて、クライエントの心の状態を改善していく心理療法を段階的に教えます。このようなプロセスを踏むことで、人の心理はスムーズに変化します。
なぜこのように段階を踏むのかというと、
人が行動を起こす動機は大きく2つに分類できるからです。
1つは「今の苦しみから逃れたい」
もう1つは「今よりもっと気分がよくなりたい」というものです。
カウンセリングを受けにくるような、生きづらさを抱えた人は、最初は、「とにかく現状をどうにかしたい」という思いしかありません。そこで、まずは苦しみを軽くして、マイナスの状態をゼロに戻すことが大切です。
そうすると、自然に「人づき合いがうまくなりたい!」「自分を好きになりたい!」など、「もっとよくなりたい!」という気持ちがわいてきます。
そこですかさず、そういった願望を叶えるための心理療法を実践すれば、自分の心の状態をプラスへと向上させることができます。
私の元にやってくるクライエントの半分は、精神科の治療を受けていたり、薬を服用していたりしている心の病を抱えている方です。それでも、なんとか日常生活を送れている方であれば、問題解決型カウンセリングで段階的に心理療法を行うことで、ほとんどの方は症状が改善しています。結果、薬をやめられた方も少なくありません。
つまり、薬の代わりに心理療法を日常生活に取り入れることで、薬を減らしていこうということです。数種類の心理療法を習得することができれば、さまざまな場面やその時々の状態で活用することができるようになります。
問題解決型カウンセリングは、精神科のカウンセリングでは、あまり効果を感じられなかったという方や「いつまで薬を飲み続けなくてはいけないんだろう」と悩んでいる方にも有効な手段と言えます。
問題解決型カウンセラーの役目とは?
「催眠療法の父」と呼ばれる天才的な心理療法家であり、精神科医のミルトン・エリクソンは、カウンセラーの役割についてこう述べています。
「私たち心理療法家(カウンセラー)の役割は、最初のピストルを鳴らすことだ。
自然に走り出すのを見守っているだけでもなく、
ゴールテープをきるまで一緒に走っていくわけでもない」
カウンセラーとは、クライエントが走り出せるように合図をするスターターのようなもの。つまり、行動を起こすのも、問題を解決するのもクライエント自身です。クライエントの話を引き出して、受け入れ、共感することで、そのお手伝いをするのがカウンセラーの役目ということです。
これは、問題解決型カウンセラーについても同じです。
しかし、問題解決型カウンセラーの場合、クライエントの話を聞くだけでなく、その人に合った心理療法を提案・指導し、いっしょにトレーニングを行ったりして、一般的なカウンセラーよりも、積極的にクライエントの回復にかかわることになります。
例えるならば、スターターというより、「子どもに補助なし自転車の乗り方を教える親」のほうが近いかもしれません。
後ろで転ばないように支えながら、乗り方のアドバイスをしたりしますが、実際にペダルをこぐのは自転車に乗っている子ども本人(クライエント)です。練習していくうちにコツがわかってきたら、親(カウンセラー)はこっそり手を離し、子どもが自分の力だけで自転車に乗れるようにします。一度乗り方を覚えてしまえば、子どもはいつでも、どこでも自転車で走ることができます。
同じように、さまざまな心理療法を教えて、クライエントが必要なときにいつでも「セルフ・カウンセリング」できるようにサポートするのが、問題解決型カウンセラーの役目なのです。
一方で、カウンセラーと似たような職業には、コンサルタントや、コーチがあります。これらとカウンセラーとは、どう違うのでしょうか。
コンサルタントとは、特定の分野における専門的な知識や経験を生かして、クライアントの問題点を客観的に探り出し、アドバイスや指導を行う専門家のことです。おもなクライアントは企業です。
ではコーチはというと、実は用いる手法はカウンセラーとあまり違いはありません。けれどもその目的や役割に違いがあります。
カウンセリングの目的はクライエントの癒やしや回復で、そのサポートをするのがカウンセラーの役目ですが、コーチングの目的はクライエントの目標達成です。コーチにはクライエントが主体的に考え、目標達成に必要な行動ができるように支援する役割があります。
たとえば、海辺におなかを空かせた子どもがいたとします。その子どもに対して魚を獲って、与えてあげるのがコンサルタントです。
一方、釣り竿を与えて魚が釣れるまで待つのがカウンセラーで、「1日20尾釣って、それを売る」などと目標を明確にしたうえで釣り竿を与えるのがコーチです。
では問題解決型カウンセラーの場合はどうかというと、カウンセラーとコーチの中間ぐらいの役割といえます。
癒やしや治療も目的ですが、さらにクライエントの「もっと良くなりたい」「変わりたい」という気持ちを引き出し、その目標を達成できるようにサポートするからです。そのために、クライエントにさまざまな心理療法を伝授します。
海を目の前におなかを空かせた子どもに対して、釣り竿だけでなく、船や網、銛、罠など、さまざまな釣りの道具を与えるのが、問題解決型カウンセラーなのです。
ちなみに、私のような問題解決型カウンセリングを行うカウンセラーは、決してメジャーではなく、私の知る限り、ほとんどいません。問題解決型カウンセラーになるには、さまざまな心理療法を理解し、そのノウハウを身につけなければならないので、非常に時間がかかります。
しかし、だからこそ、その人にあったオーダーメイドの心理療法を提供し、短期間でクライエントの苦しみに寄り添い、癒していくことができます。しかも、クライエントに心理療法のやり方を伝えて、実践してもらうなかで、本人が自分で心をコントロールすることが可能になります。
最終的にはカウンセリングがいらない状態が望ましいわけですし、早期に、根本的に問題を解決することが、カウンセラーにとってもクライエントにとっても、望ましい関係なのです。
カウンセリングで大切なこと
問題解決型カウンセリングの目的は、クライエントが自分で問題を解決したり、目標を達成できたりするようになることです。簡単に言えば、クライエントの「自立」がゴールとなります。
そのため、クライエントがカウンセラーに対して、過度に依存しないよう工夫する必要があります。具体的には、こちらがああしなさい、こうしなさいと指示するのではなく、意識的に選択・決断をする機会を多く作っています。
「自分で課題を決める」のも、クライエントの自立を促すためです。
課題の内容はその時々で異なりますが、重要なのは「自分で決めたことを自分でやる」ことです。
それは「朝起きたら、すぐに窓を開けて朝日を浴びる」「出社したらまず机の上をきれいにする」「お風呂上がりにストレッチをする」など、どんな小さなことでもかまいません。
新しいことを始めるのでもいいですし、「ペットボトルのお茶を買うのをやめる」「1週間に1回だったランニングを2回にする」など、今までやっていたことをやめるのでも、頻度を増やすのでもOKです。
大切なのは、自分で課題を決め、それを実行すること。これを繰り返すことで、クライエントの自立心は高まります。
また、課題をクリアするためには、今までと違う行動や思考が求められるので、無意識に続けてきた思考パターン、行動パターンを崩すことができます。
同じ考え方、行動を続けていれば、結果は今までと変わりません。反対に、パターン化していた思考や行動を変えれば、必ず、変化は表れます。
たとえば、課題が達成できなかったとしても、「どうすれば課題をクリアできるだろう」「次はどんな課題にしよう」などと、前向きな思考が自然に生まれたりします。
課題という新たな習慣が刺激となって、自分を変えやすくなるのです。
過去の人間関係で繰り返すパターンを知る
私のカウンセリングを受けにくるクライエントの多くは、「人とうまく付き合えない」「人に依存してしまう」「親(または夫)との関係に問題がある」など、生きづらさを感じています。そういう生きづらさを感じている人たちには、ひとつの共通点があります。それは、いつも自分を責めていること。
「私が生きづらいのは、自分が悪いせいだ」と思い込んでいます。
上司にいつも辛く当たられるのも、夫婦関係がうまくいかないのも、恋愛に依存してしまうのも、すべて私の性格のせいだ、自分の存在に問題があるんだ・・・そんなふうに自分を責めていたら、生きていて苦しいのは、当たり前です。
けれども、我々が生きづらさを感じてしまうとき、それはその人がもともと持っている人間性や個性のせいではありません。その原因は思考や行動にあります。
人には、知らず知らずに植え付けられてしまった思考パターンや行動パターンがあり、それが生きづらさにつながっていることがほとんどなのです。
たとえば、「目上の人を前にすると、萎縮してしまう」という人はいませんか? これも思考・行動パターンのひとつです。
「自分より立場が上の人とは、目も合わせられず、自分の意見を伝えられず、『はい』ということしかできない」というパターンができてしまっていれば、直属の上司、職場の先輩、取引先の社長など、相手が変わっても、条件反射のように同じ対応をしてしまいます。これが「上司からのパワハラ」「仕事が続かない」といった悩みの原因になっていることがあります。
中には「怒りや悲しみというマイナスな感情は悪いものだから、表に出さない」というパターンができている人もいます。そういう人は感情を抑え込むあまりストレスがたまりますし、誰にも自分をさらけだせず孤独感を感じるようになることもあります。
同じ思考や行動を続けている限り、そこから生まれる結果は同じです。転職しても、つきあう人を変えても、同じような生きづらさを感じることになります。
それを解消するには、自分が繰り返してしまっている思考パターン、行動パターンを見つけて、崩す必要があるのです。
そこで問題解決型カウンセリングでは、初回のカウンセリングで、クライエントに小学生のころから今までを振り返って、どんな人とかかわり、どんなふうに過ごしてきたか、つらかったことや楽しかったこと、夢中になったことなどを、順を追って話してもらいます。その時間は30分〜1時間くらい。
そのなかで、「そういえばこんなことがあった」「こんな気持ちになったな」などと、これまでの自分の気持ちや言動、経験が整理されていくと、クライエント自身が自分の根底にある思考や行動のパターンに気づきます。
さらに、なぜ、そのようなパターンが植え付けられてしまったのか、その根本的な原因も見つけられます。
たとえば、「目上の人に萎縮してしまうようになったのは、母親のしつけが原因だったんだ」「怒りや悲しみを抑え込むようになったのは、小学校のとき友だちとケンカして仲間はずれにされたことが原因だったんだ」などと思い至るのです。
生きづらさの原因が、自分の性質や本質といった変えられないものではなく、後から作られた思考や行動であることがわかるだけでも、意識は前向きになります。
後から作られた思考や行動は、壊してすてることも、作り変えることもできます。そうすれば、今抱えている生きづらさから、自分を開放できるのですから。
思考や行動パターンを崩したり、その大元にある過去のトラウマを解消したりするための心理療法については、5回前後のカウンセリングの中で、段階を踏んで行っていきます。
ただ、自分だけで自分の心の奥にある根本的な原因を探るのは、簡単ではありません。人の心理はとても複雑で、本人でさえ自分の本当の気持ちがわからないことも多いからです。
たとえば、人の感情の難解さがよくわかる心理現象に「投影」があります。
投影とは、自分の潜在的な性質や感情を認めたくないとき、相手を絶対的な悪として非難することによって、自分の欲求はみないようにする行為です。
たとえば、「男性に甘えるのなんてもってのほか、自分の人生は自分で切り開く!」といった自立心の強すぎるキャリアウーマンがいたとします。
そんなキャリアウーマンが、甘え上手なキャピキャピした女性社員を見て、恨みや憎しみのような何とも言えない複雑な感情が出たり、「顔も見たくない」「あんな社員は会社の害虫」だと言って攻撃対象にすることがあります。
そのような感情や、行動にまで起こすような状態であれば、「投影」を疑ってみてもよいかもしれません。もしかしたらその人の心の奥底には、「甘えたい」「頼りたい」といった欲求が強くあったりします。
ただ、普段は光の当たらない影の部分ですので、なかなか認められず、無自覚な心理現象ですから、本人も自分の本当の気持ちには気づきません。
投影はあくまでひとつの例ですが、表に見えている思いがすべてとは限らないのが、人間のややこしいところです。だからこそ、カウンセラーが必要なのだと思います。
さまざまに絡み合った感情や思いをときほぐし、整理して、深層心理を探るお手伝いをするのがカウンセラーの仕事です。それによって、クライエント自身も気づかなかった気持ちや思いに気づくことができれば、それが、回復の第一歩となります。
人生最大の質問
「私は、本当はどうなりたいのだろう?」
生きづらさを自分のせいだと考えてしまう人の頭の中では、常にこんな問いがうずまいています。
「どうして自分はこんなにダメなんだろう」
「なぜ人に好かれないんだろう」
「私のどこが悪いんだろう」
こんな答えの出ない(もともと答えなどない)問いであっても、私たちの心は無意識に答えを出そうとします。自分がダメな理由や人から好かれない理由、自分の悪いところを探してしまうのです。常に、自分の欠点を探し続けるようなものですから、苦しいはずです。
しかし、自分を追い詰めるこういった問いは、自分自身でつくり出した思い込みでしかありません。
そこで私は、カウンセリングの1回目、または2回目に、クライエントにこんな質問を投げかけるようにしています。
「あなたは、本当はどうなりたいのですか?」
これは、人が生きていくうえでの意味や目的を問うような、人生における根本的な質問です。日常生活のなかでこんな質問をされることはありませんし、自分自身で改めて考えることもほとんどないでしょう。まして、現状がつらくて、そこから抜け出したいと考えている人にとっては、まったく頭の中にない問いです。
けれども私たち人間は、問いが投げかけられれば、必ず答えを出そうと深層心理が働く生き物です。これまで考えてもみなかった「私は、本当はどうなりたいのだろう?」という問いであっても、どうにか答えを出そうとします。
それが、自分がダメな理由ばかり探していた思考パターンを変えるきっかけになります。
私は、クライエントにこのように說明します。
「この質問の答えは、すぐにみつからないかもしれません。答えが出るのは、1年後かもしれませんし、10年後、あるいはもっと先かもしれません。答えが出なくてもいいですから、この質問を頭の片隅において生活してみてください。
そして、もし、答えらしきものが思い浮かんだら、ノートにメモしたり、スマホに記録したりして、それを次のカウンセリングのときに教えてください」
「私は、本当はどうなりたいのだろう?」という問いは、常に心に留めておいて、長い時間をかけて答えを探すことに意味があります。
なぜなら、この質問を考えているときは、ダメな自分やつらい現状から意識がそれるので、苦しさがやわらぐからです。今まで苦しさのレベルが10だったとしたら、少なくとも、9や8まで下げることができるでしょう。
さらに、「こんなふうになりたい」「○○を手に入れたい」など、自分のなりたい理想像を言語化して記録していくと、意識はつらい現状から、明るい未来へと切り替わります。「なりたい自分になった状態」を想像するだけでも気持ちが軽くなりますし、「自分を変えたい」「自分を変えるためにはどうすればよいだろう」と前向きな思考を生むきっかけにもなります。それが、問題解決型カウンセリングに臨むモチベーションを向上させ、効果を高めることにもつながります。
「心のストレッチルーム」
前田 泰章
[参考文献]
●『一瞬で人生が変わる恩返しの法則』
著:西田文郎(SBクリエイティブ)
●『癒されながら夢が叶う!問題解決セラピー』
著:矢野惣一(総合法令出版)
●『「なんとなく生きづらい」がフッとなくなるノート』
著:前田泰章(クロスメディア・パブリッシング)
講師プロフィール
前田 泰章
「生きづらさ改善」の専門家
問題解決型カウンセラー、著述家
1976年生まれ、埼玉県出身。日本体育大学卒業後、ファミリーレストラン店長、キャリアコンサルタント、中学校教諭を経たあと、原因不明の目の病気になり妻子を抱え失業。専業主夫を2年間経験し、心理療法と出合い2010年、元教師としての経験を活かし、「教師の悩み専門」のカウンセリング「心のストレッチルーム」(埼玉県川越市)を開業。その後、「不登校の親御さん」を対象としたカウンセリングをおこなう。
現在は、「カウンセリング」とさまざまな「心理療法」のメソッドを組み合わせた「問題解決型カウンセリング」を開発・実践し、人間関係の悩み、うつ病、適応障害、社会不安障害、依存症などを薬に頼らないで、通常なら半年~1年かかる症状を5回前後のカウンセリングで解決に導いている。セミナーやワークショップにも力を入れ、さらに多くの人に問題解決メソッドを広めるため、2020年「生きづらさ」を短期間で改善するオンラインコースを開設。
著書には、カウンセリングの現場でクライエントに伝授している心理療法の技法をまとめた、『「なんとなく生きづらい」がフッとなくなるノート』(クロスメディア・パブリッシング)がある。
東洋経済オンライン、週刊女性プライム、小五教育技術(小学館)、電車内で取り上げられるなどして、ロングセラーとなっている。今後は翻訳され台湾での発売も控えている。その他メディア掲載多数。
*西武池袋線(池袋~飯能)にて掲出
*台湾の出版社(三民書局)より