<目次>

 

【第1章】

問題解決型カウンセリングとは?

 

①一般的なカウンセリングとは違う、問題解決型カウンセリング

・カウンセリングとは、「対話による療法」 

・問題解決型カウンセリングとは「カウンセリング×心理療法」 

 

②問題解決型カウンセリングの仕組み

・問題解決型カウンセラーの役目とは? 

・カウンセリングで大切なこと 

 

③問題解決型カウンセリングが「生きづらさ」に効く理由

・過去の人間関係で、繰り返すパターンを知る 

・人生最大の質問「私は、本当はどうなりたいのだろう?」 

 

 

【第2章】

自分の心理状態を確かめる

 

①感情のしくみを理解する

・なぜ書き出すと気持ちが整理されるのか?

・悩んでいる人の思考パターン 

・「書き出す」ときのポイント 

 

②問題の捉え方を変える

・問題を縦に並べると、整理しやすい 

・思い通りにならないことがある人は〇〇していない 

・自分の問題と相手の問題を線引きする 

 

③気分をコントロールする

・人が最終的に手に入れたいものは「気分」 

・「気分」を先取りする方法 

・脳を不快から快へ 

 

第1章 問題解決型カウンセリングとは?

 

①一般的なカウンセリングとは違う、問題解決型カウンセリング

 

カウンセリングとは、「対話による療法」

はじめてクライエント(相談者)にお会いするとき、私が必ず聞いていることがあります。

それはこんな質問です。

 

「カウンセリングについて、どんな印象がありますか?」

 

こう聞くと、ほとんどの方は、「よくわからない」「あまり知らない」とお答えになります。

カウンセリングという言葉は知っていても、実際、どんなことをするのか、どんな効果があるのかは知らないという人が多いのです。みなさんもそうではないでしょうか。

 

よく言われることですが、欧米諸国、とくにアメリカでは、自分たちで解決できない悩みや心の問題があったとき、カウンセラーに相談し、解決策を探すことはめずらしいことではありません。それは風邪になったら医師の診療を受けるように、当たり前のことです。

 

それにくらべて日本では、

「心の問題を人に話すのは恥ずかしい」

「気持ちの問題だから、自分で解決するしかない」

と考えがちで、心の不調があっても精神科や心療内科を受診することすらためらう人が多くいます。

 

ましてや自分からカウンセリングを受けようという人はほとんどいません。

これでは、カウンセリングやカウンセラーについての知識が少ないのは、当然のことです。

 

どんなものかわからなければ、カウンセリングを受けてみようという気持ちにはならないでしょうし、さらには「本当に効果があるの?」と疑いの目で見てしまうものです。

そういったカウンセリングに対する不安や心配を払拭するためにも、まずみなさんに知っていただきたいのが、一般的なカウンセリングの方法とその効果です。

 

 

カウンセリングとは、対話による療法です。

 

カウンセラーとクライエントが1対1で行うものもあれば、グループで行うものもあります。いずれにしろ、おもに言葉を使い、話し合いによってクライエントの問題や悩みを解決していきます。

 

ただし、「対話」とはいっても、そのメインは「聞く」ことです。

日本で一般的に行われているカウンセリングのほとんどは、傾聴(相手の話を積極的に聴くこと)と共感を重視します。

カウンセラーは少し質問をしたり、相づちをうつくらいで、ほとんど言葉を発しません。

 

このカウンセリングの技法は、

1940年代に、アメリカの心理学者カール・ランサム・ロジャーズが提唱した「来談者(クライエント)中心療法」が元になっています。

この療法では、「人間は誰でも潜在的に、自己成長・自己実現を達成する力を持っている」ものとし、心理的な療法を行う者はあくまでも脇役として、積極的なアドバイスや指示はせず、「聞き役」に徹することが大切だとしています。

このロジャーズの考えは、現在も、カウンセラーが示すべき態度・姿勢の基本とされています。

 

こう説明すると、当然、「話を聞いてもらうだけなのに、効果があるのはなぜ?」と不思議に思う方もいらっしゃるでしょう。

 

けれども、みなさんにもこんな経験はありませんか?

「仕事のことや人間関係のことでもんもんと悩んでいたけれど、家族に話を打ち明けたらすっきりした」

 

「仕事で失敗して落ち込んでいたけれど、友達に愚痴をきいてもらったら、元気が出てきた」

きっと、思い当たることがあるはずです。

 

人は、心のうちにある感情や思いを言葉にして吐き出すことで、気持ちが楽になったり、癒やされたりします。

これを心理学用語で「カタルシス効果」または「自浄作用」と言います。

カウンセリングにも、このカタルシス効果が期待できるのです。

 

加えて、カウンセリングの場は、クライエントの心の内を話すためだけに用意された特別な空間・時間です。

普段の生活では、なかなか自分の話だけをする時間はないでしょうし、聞き手はあなたの言動をすべて受け入れてくれるわけではありません。

「あなたが間違っているんじゃない?」

「自分はそうは思わない」

などと、否定されることもあるでしょう。

 

一方、カウンセリングの場合、時間の許す限り、あなたが話したいことだけを話せばいいですし、カウンセラーはそれをすべて受け入れ、肯定し、共感してくれます。これは日常にはない、非日常の空間と言えます。

 

だからこそ、「人には言えない悩み」や「漠然としたつらさ」を思う存分吐き出すことができます。誰にも言えないと心にしまっていたことを聞いてもらえるので、より大きなカタルシス効果が得られるのです。

 

また、カウンセリングを繰り返すなかで、自分の心の中の問題を言語化していくと、心の中が徐々に整理されていきます。客観的に自分を見られるようになっていくのです。

 

その結果、クライエントは今まで見えていなかった本当の気持ちや問題の原因に気づいていきます。最終的には、これからどうすればよいか、解決策を見つけていくこともできます。

 

 

問題解決型カウンセリングとは
「カウンセリング×心理療法」

こうした一般的なカウンセリングに対して、私が行っている「問題解決型カウンセリング」とは、その名の通り、より積極的に、短期間で問題を解決に導くカウンセリングです。

簡単に說明すると、カウンセリングと、さまざまな心理療法を組み合わせた療法です。

心理療法とは、薬や、熱や光といった物理的なエネルギーを使うのではなく、対話やトレーニングなどを通して心の状態を改善するための療法で、心理学や医学を元に考案されています。

その種類はさまざまで、カウンセリングも心理療法の一種ですし、そのほか、催眠療法やブリーフセラピー、フォーカシング、NLP(神経言語プログラミング)、箱庭療法、音楽療法など100以上の療法があると言われています。

当然、それぞれに効果も違いますし、人によって合う・合わないもあるでしょう。

 

そこで問題解決型カウンセリングでは、一般的なカウンセリングを行った後、クライエントの悩みや性格に合わせたその他の心理療法を行います。

 

しかも心理療法を行うのは、クライエント本人です。

 

通常、心理療法はカウンセラーや心理セラピストと呼ばれる専門家のもとで行われますが、問題解決型カウンセリングの場合は、カウセリングという場を通してクライエントに心理療法を指導し、実生活のなかで活用できるようにします。

 

たとえば、会社の人間関係で悩んでいる場合、苦手な人からの心ない言葉や態度によって仕事中に憂うつな気持ちや不安感などに心が支配されてしまうこともあるでしょう。そういう気持ちを溜め込んでいくと、心はどんどん疲弊していきます。

 

こういう場合、問題解決型カウンセリングでは、「感情をコントロールする心理療法」などのやり方をクライエントに伝えて、一人でも実践できるようにトレーニングをします。

生活のなかで嫌な感情に襲われたときに使える武器を伝授するのです。

 

また、問題解決型カウンセリングでクライエントに指導するのはひとつの心理療法だけではありません。

状況や原因、症状によって使い分けられるように、「トラウマを乗り越えるための心理療法」や「自分を変えるための心理療法」など、クライエントに必要なさまざまな武器を伝授していきます。

 

結果、生活のなかでの困りごとをその場、その場で解決できるので、気持ちが楽になりますし、悩みや問題も徐々に解消できます。問題解決型カウンセリングでは、クライエントが自分で自分をカウンセリングして癒す方法、つまり「セルフ・カウンセリング」の技術を身につけられるというわけです。

 

 

月に1〜2回、カウンセラーによるカウンセリングを受けるのと、毎日、自分で自分をカウンセリングするのでは、どちらに即効性があるか。それは、火を見るより明らかでしょう。

さらに一般的なカウンセリングの場合、根本的な心の問題を解決するためには、クライエント自身が原因や解決法に「気づく」のを待たなければならないので、その分、時間がかかります。

一般的には半年から1年、人によっては5年以上かかることもあります。

 

一方、問題解決型カウンセリングは、当然、人によってばらつきはありますが、平均すると3〜6か月、面会の回数でいうと5回前後で完了します。

 

 

初回のカウンセリングでまず行うのは、対話による一般的なカウンセリングです。

ここで、クライエントに自分のなかにある不安や不満を吐き出してもらい、その人がどんなことに生きづらさを感じているのかを聞き出しつつ、カタルシス効果で心を癒やします。

 

そのうえで2回目以降、心理療法という武器をひとつずつ増やしていき、より積極的にクライエントが抱える心の問題を解決していきます。

そこでも、まずは表面的な苦しみを取り除く心理療法を指導するところからはじめて、クライエントの心の状態を改善していく心理療法を段階的に教えます。このようなプロセスを踏むことで、人の心理はスムーズに変化します。

 

なぜこのように段階を踏むのかというと、

人が行動を起こす動機は大きく2つに分類できるからです。

1つは「今の苦しみから逃れたい」

もう1つは「今よりもっと気分がよくなりたい」というものです。

 

カウンセリングを受けにくるような、生きづらさを抱えた人は、最初は、「とにかく現状をどうにかしたい」という思いしかありません。そこで、まずは苦しみを軽くして、マイナスの状態をゼロに戻すことが大切です。

そうすると、自然に「人づき合いがうまくなりたい!」「自分を好きになりたい!」など、「もっとよくなりたい!」という気持ちがわいてきます。

そこですかさず、そういった願望を叶えるための心理療法を実践すれば、自分の心の状態をプラスへと向上させることができます。

私の元にやってくるクライエントの半分は、精神科の治療を受けていたり、薬を服用していたりしている心の病を抱えている方です。それでも、なんとか日常生活を送れている方であれば、問題解決型カウンセリングで段階的に心理療法を行うことで、ほとんどの方は症状が改善しています。結果、薬をやめられた方も少なくありません。

 

つまり、薬の代わりに心理療法を日常生活に取り入れることで、薬を減らしていこうということです。数種類の心理療法を習得することができれば、さまざまな場面やその時々の状態で活用することができるようになります。

問題解決型カウンセリングは、精神科のカウンセリングでは、あまり効果を感じられなかったという方や「いつまで薬を飲み続けなくてはいけないんだろう」と悩んでいる方にも有効な手段と言えます。

②問題解決型カウンセリングの仕組み

問題解決型カウンセラーの役目とは?

「催眠療法の父」と呼ばれる天才的な心理療法家であり、精神科医のミルトン・エリクソンは、カウンセラーの役割についてこう述べています。

「私たち心理療法家(カウンセラー)の役割は、最初のピストルを鳴らすことだ。

自然に走り出すのを見守っているだけでもなく、

ゴールテープをきるまで一緒に走っていくわけでもない」

カウンセラーとは、クライエントが走り出せるように合図をするスターターのようなもの。つまり、行動を起こすのも、問題を解決するのもクライエント自身です。クライエントの話を引き出して、受け入れ、共感することで、そのお手伝いをするのがカウンセラーの役目ということです。

これは、問題解決型カウンセラーについても同じです。

 

しかし、問題解決型カウンセラーの場合、クライエントの話を聞くだけでなく、その人に合った心理療法を提案・指導し、いっしょにトレーニングを行ったりして、一般的なカウンセラーよりも、積極的にクライエントの回復にかかわることになります。

 

例えるならば、スターターというより、「子どもに補助なし自転車の乗り方を教える親」のほうが近いかもしれません。

後ろで転ばないように支えながら、乗り方のアドバイスをしたりしますが、実際にペダルをこぐのは自転車に乗っている子ども本人(クライエント)です。練習していくうちにコツがわかってきたら、親(カウンセラー)はこっそり手を離し、子どもが自分の力だけで自転車に乗れるようにします。一度乗り方を覚えてしまえば、子どもはいつでも、どこでも自転車で走ることができます。

 

同じように、さまざまな心理療法を教えて、クライエントが必要なときにいつでも「セルフ・カウンセリング」できるようにサポートするのが、問題解決型カウンセラーの役目なのです。

 

一方で、カウンセラーと似たような職業には、コンサルタントや、コーチがあります。これらとカウンセラーとは、どう違うのでしょうか。

 

コンサルタントとは、特定の分野における専門的な知識や経験を生かして、クライアントの問題点を客観的に探り出し、アドバイスや指導を行う専門家のことです。おもなクライアントは企業です。

 

ではコーチはというと、実は用いる手法はカウンセラーとあまり違いはありません。けれどもその目的や役割に違いがあります。

カウンセリングの目的はクライエントの癒やしや回復で、そのサポートをするのがカウンセラーの役目ですが、コーチングの目的はクライエントの目標達成です。コーチにはクライエントが主体的に考え、目標達成に必要な行動ができるように支援する役割があります。

 

たとえば、海辺におなかを空かせた子どもがいたとします。その子どもに対して魚を獲って、与えてあげるのがコンサルタントです。

 

一方、釣り竿を与えて魚が釣れるまで待つのがカウンセラーで、「1日20尾釣って、それを売る」などと目標を明確にしたうえで釣り竿を与えるのがコーチです。

では問題解決型カウンセラーの場合はどうかというと、カウンセラーとコーチの中間ぐらいの役割といえます。

癒やしや治療も目的ですが、さらにクライエントの「もっと良くなりたい」「変わりたい」という気持ちを引き出し、その目標を達成できるようにサポートするからです。そのために、クライエントにさまざまな心理療法を伝授します。

 

海を目の前におなかを空かせた子どもに対して、釣り竿だけでなく、船や網、銛、罠など、さまざまな釣りの道具を与えるのが、問題解決型カウンセラーなのです。

 

 

ちなみに、私のような問題解決型カウンセリングを行うカウンセラーは、決してメジャーではなく、私の知る限り、ほとんどいません。問題解決型カウンセラーになるには、さまざまな心理療法を理解し、そのノウハウを身につけなければならないので、非常に時間がかかります。

しかし、だからこそ、その人にあったオーダーメイドの心理療法を提供し、短期間でクライエントの苦しみに寄り添い、癒していくことができます。しかも、クライエントに心理療法のやり方を伝えて、実践してもらうなかで、本人が自分で心をコントロールすることが可能になります。

 

最終的にはカウンセリングがいらない状態が望ましいわけですし、早期に、根本的に問題を解決することが、カウンセラーにとってもクライエントにとっても、望ましい関係なのです。

 

 

カウンセリングで大切なこと

問題解決型カウンセリングの目的は、クライエントが自分で問題を解決したり、目標を達成できたりするようになることです。簡単に言えば、クライエントの「自立」がゴールとなります。

そのため、クライエントがカウンセラーに対して、過度に依存しないよう工夫する必要があります。具体的には、こちらがああしなさい、こうしなさいと指示するのではなく、意識的に選択・決断をする機会を多く作っています。

 

「自分で課題を決める」のも、クライエントの自立を促すためです。

課題の内容はその時々で異なりますが、重要なのは「自分で決めたことを自分でやる」ことです。

それは「朝起きたら、すぐに窓を開けて朝日を浴びる」「出社したらまず机の上をきれいにする」「お風呂上がりにストレッチをする」など、どんな小さなことでもかまいません。

新しいことを始めるのでもいいですし、「ペットボトルのお茶を買うのをやめる」「1週間に1回だったランニングを2回にする」など、今までやっていたことをやめるのでも、頻度を増やすのでもOKです。

大切なのは、自分で課題を決め、それを実行すること。これを繰り返すことで、クライエントの自立心は高まります。

 

また、課題をクリアするためには、今までと違う行動や思考が求められるので、無意識に続けてきた思考パターン、行動パターンを崩すことができます。

同じ考え方、行動を続けていれば、結果は今までと変わりません。反対に、パターン化していた思考や行動を変えれば、必ず、変化は表れます。

たとえば、課題が達成できなかったとしても、「どうすれば課題をクリアできるだろう」「次はどんな課題にしよう」などと、前向きな思考が自然に生まれたりします。

課題という新たな習慣が刺激となって、自分を変えやすくなるのです。

 

 

 

 

③問題解決型カウンセリングが「生きづらさ」に効く理由

過去の人間関係で繰り返すパターンを知る

私のカウンセリングを受けにくるクライエントの多くは、「人とうまく付き合えない」「人に依存してしまう」「親(または夫)との関係に問題がある」など、生きづらさを感じています。そういう生きづらさを感じている人たちには、ひとつの共通点があります。それは、いつも自分を責めていること。

 

「私が生きづらいのは、自分が悪いせいだ」と思い込んでいます。

上司にいつも辛く当たられるのも、夫婦関係がうまくいかないのも、恋愛に依存してしまうのも、すべて私の性格のせいだ、自分の存在に問題があるんだ・・・そんなふうに自分を責めていたら、生きていて苦しいのは、当たり前です。

 

けれども、我々が生きづらさを感じてしまうとき、それはその人がもともと持っている人間性や個性のせいではありません。その原因は思考や行動にあります。

人には、知らず知らずに植え付けられてしまった思考パターンや行動パターンがあり、それが生きづらさにつながっていることがほとんどなのです。

 

たとえば、「目上の人を前にすると、萎縮してしまう」という人はいませんか? これも思考・行動パターンのひとつです。

「自分より立場が上の人とは、目も合わせられず、自分の意見を伝えられず、『はい』ということしかできない」というパターンができてしまっていれば、直属の上司、職場の先輩、取引先の社長など、相手が変わっても、条件反射のように同じ対応をしてしまいます。これが「上司からのパワハラ」「仕事が続かない」といった悩みの原因になっていることがあります。

 

中には「怒りや悲しみというマイナスな感情は悪いものだから、表に出さない」というパターンができている人もいます。そういう人は感情を抑え込むあまりストレスがたまりますし、誰にも自分をさらけだせず孤独感を感じるようになることもあります。

 

同じ思考や行動を続けている限り、そこから生まれる結果は同じです。転職しても、つきあう人を変えても、同じような生きづらさを感じることになります。

それを解消するには、自分が繰り返してしまっている思考パターン、行動パターンを見つけて、崩す必要があるのです。

 

そこで問題解決型カウンセリングでは、初回のカウンセリングで、クライエントに小学生のころから今までを振り返って、どんな人とかかわり、どんなふうに過ごしてきたか、つらかったことや楽しかったこと、夢中になったことなどを、順を追って話してもらいます。その時間は30分〜1時間くらい。

そのなかで、「そういえばこんなことがあった」「こんな気持ちになったな」などと、これまでの自分の気持ちや言動、経験が整理されていくと、クライエント自身が自分の根底にある思考や行動のパターンに気づきます。

 

さらに、なぜ、そのようなパターンが植え付けられてしまったのか、その根本的な原因も見つけられます。

たとえば、「目上の人に萎縮してしまうようになったのは、母親のしつけが原因だったんだ」「怒りや悲しみを抑え込むようになったのは、小学校のとき友だちとケンカして仲間はずれにされたことが原因だったんだ」などと思い至るのです。

 

生きづらさの原因が、自分の性質や本質といった変えられないものではなく、後から作られた思考や行動であることがわかるだけでも、意識は前向きになります。

 

後から作られた思考や行動は、壊してすてることも、作り変えることもできます。そうすれば、今抱えている生きづらさから、自分を開放できるのですから。

思考や行動パターンを崩したり、その大元にある過去のトラウマを解消したりするための心理療法については、5回前後のカウンセリングの中で、段階を踏んで行っていきます。

 

ただ、自分だけで自分の心の奥にある根本的な原因を探るのは、簡単ではありません。人の心理はとても複雑で、本人でさえ自分の本当の気持ちがわからないことも多いからです。

 

たとえば、人の感情の難解さがよくわかる心理現象に「投影」があります。

投影とは、自分の潜在的な性質や感情を認めたくないとき、相手を絶対的な悪として非難することによって、自分の欲求はみないようにする行為です。

 

たとえば、「男性に甘えるのなんてもってのほか、自分の人生は自分で切り開く!」といった自立心の強すぎるキャリアウーマンがいたとします。

そんなキャリアウーマンが、甘え上手なキャピキャピした女性社員を見て、恨みや憎しみのような何とも言えない複雑な感情が出たり、「顔も見たくない」「あんな社員は会社の害虫」だと言って攻撃対象にすることがあります。

そのような感情や、行動にまで起こすような状態であれば、「投影」を疑ってみてもよいかもしれません。もしかしたらその人の心の奥底には、「甘えたい」「頼りたい」といった欲求が強くあったりします。

 

ただ、普段は光の当たらない影の部分ですので、なかなか認められず、無自覚な心理現象ですから、本人も自分の本当の気持ちには気づきません。

 

投影はあくまでひとつの例ですが、表に見えている思いがすべてとは限らないのが、人間のややこしいところです。だからこそ、カウンセラーが必要なのだと思います。

さまざまに絡み合った感情や思いをときほぐし、整理して、深層心理を探るお手伝いをするのがカウンセラーの仕事です。それによって、クライエント自身も気づかなかった気持ちや思いに気づくことができれば、それが、回復の第一歩となります。

 

 

人生最大の質問
「私は、本当はどうなりたいのだろう?」

生きづらさを自分のせいだと考えてしまう人の頭の中では、常にこんな問いがうずまいています。

「どうして自分はこんなにダメなんだろう」

「なぜ人に好かれないんだろう」

「私のどこが悪いんだろう」

こんな答えの出ない(もともと答えなどない)問いであっても、私たちの心は無意識に答えを出そうとします。自分がダメな理由や人から好かれない理由、自分の悪いところを探してしまうのです。常に、自分の欠点を探し続けるようなものですから、苦しいはずです。

しかし、自分を追い詰めるこういった問いは、自分自身でつくり出した思い込みでしかありません。

 

そこで私は、カウンセリングの1回目、または2回目に、クライエントにこんな質問を投げかけるようにしています。

 

「あなたは、本当はどうなりたいのですか?」

 

これは、人が生きていくうえでの意味や目的を問うような、人生における根本的な質問です。日常生活のなかでこんな質問をされることはありませんし、自分自身で改めて考えることもほとんどないでしょう。まして、現状がつらくて、そこから抜け出したいと考えている人にとっては、まったく頭の中にない問いです。

 

けれども私たち人間は、問いが投げかけられれば、必ず答えを出そうと深層心理が働く生き物です。これまで考えてもみなかった「私は、本当はどうなりたいのだろう?」という問いであっても、どうにか答えを出そうとします。

それが、自分がダメな理由ばかり探していた思考パターンを変えるきっかけになります。

 

私は、クライエントにこのように說明します。

「この質問の答えは、すぐにみつからないかもしれません。答えが出るのは、1年後かもしれませんし、10年後、あるいはもっと先かもしれません。答えが出なくてもいいですから、この質問を頭の片隅において生活してみてください。

そして、もし、答えらしきものが思い浮かんだら、ノートにメモしたり、スマホに記録したりして、それを次のカウンセリングのときに教えてください」

「私は、本当はどうなりたいのだろう?」という問いは、常に心に留めておいて、長い時間をかけて答えを探すことに意味があります。

 

なぜなら、この質問を考えているときは、ダメな自分やつらい現状から意識がそれるので、苦しさがやわらぐからです。今まで苦しさのレベルが10だったとしたら、少なくとも、9や8まで下げることができるでしょう。

 

さらに、「こんなふうになりたい」「○○を手に入れたい」など、自分のなりたい理想像を言語化して記録していくと、意識はつらい現状から、明るい未来へと切り替わります。「なりたい自分になった状態」を想像するだけでも気持ちが軽くなりますし、「自分を変えたい」「自分を変えるためにはどうすればよいだろう」と前向きな思考を生むきっかけにもなります。それが、問題解決型カウンセリングに臨むモチベーションを向上させ、効果を高めることにもつながります。


第2章 自分の心理状態を確かめる

 

①感情のしくみを理解する

 

なぜ書き出すと気持ちが整理されるのか?

ここからは、実践編です。問題解決型カウンセリングのなかで使用している心理療法はいくつかありますが、そのうちの1つのやり方や効果などについて解説します。

 

実際のカウンセリングでは、クライエントの悩みや心の状態(回復度)に合わせて心理療法を選び、実践してもらっています。回数は、症状や問題によりまちまちですが、平均すると5回前後で完了するケースが多く、その中で、いくつかの心理療法をご紹介しています。

 

ただ、紹介するすべての心理療法を行わなければならないわけではありません。今、自分に必要だと思う療法をセレクトして試してもらって結構です。

また、中には、試してみたけれど効果が感じられないものもあると思います。人によってストレス解消法が異なるように、心理療法も人によって合う・合わないがあるからです。自分には向いていない、効果がないと感じたら別の方法を試してみてください。

 

まず、このレポートで取り上げるのは、問題解決型カウンセリングの2回目で行うことの多い「書き出し療法」です。自分の心の中にある不安や悩み、願望などを「書く」ことで、気持ちを楽にする効果があります。自分の感情を書き出してストレスを軽減する「筆記療法」という心理療法がありますが、この療法もその一種です。

 

 

では、書くことで心が整理され、気持ちが楽になるのはなぜでしょうか。

 

よく「無限の想像力」と言われますが、人の頭の中で空想の世界はどこまでも広がっていきます。それが楽しい空想ならばよいのですが、悩みを抱えているとき、つらい状況に置かれているときは、ネガティブな考えがばかりが次々と浮かんできます。まるで果てしなく広がる真っ黒い闇のごとく、苦しみがいつまでも続くように感じてしまうでしょう。

 

一方、書くことには物理的な限界があります。頭の中に浮かんだことを書きつくすことはできません。永遠に書き続けようと思っても、それは不可能ですよね?

実際、自分の悩みやつらい気持ちを言葉にして書き出してみると、必ず書くことがなくな

ります。すると、そこでいったんネガティブな感情に区切りがつくので、悪いほうへ悪いほうへと考えてしまう自分にブレーキがかかるのです。

 

また、頭の中にある漠然とした思いを文字にすることで、自分の気持ちを客観視できます。

自分が考えていることや感じていることも、頭の中から取り出して文字で表現すると、自分から切り離すことができるからです。結果「自分はこんなことを考えていたんだ」ということに気づき、気持ちが整理されます。ときには、「そこまで深刻に考えるほどでもないな」と心が軽くなる場合もあるでしょう。

 

カウンセリングを必要とする人のなかには、漠然とした不安や苦しさに悩んでいる人も少なくありません。なぜ、不安になるのか、苦しいのかがわからないのです。そういう方も、初回のカウンセリングを経て、「書き出し療法」を実践すると、自分の悩みの原因に気づくことができます。

 

 

悩んでいる人の思考パターン

約20年間、夫からの暴力を受けていたという女性のクライエントがいました。カウンセリングへ通い始めたときにはすでに離婚して約6年が経過しており、3人の子どもも無事に独立。ご本人は実家で母親と暮らしながら、看護師としてやりがいを持って働いていて、周囲からの評判もよいとのことでした。しかし、夫からあびさせられたひどい言葉や殴られた痛みを思い出して、今でも苦しくなるというのです。

今現在は、夫と離れた安全な場所にいるのに、過去の出来事によってつらい気持ちになってしまう。この女性のように、過去に受けたトラウマ(心的外傷)によって生きづらさを感じている人は大勢います。

 

現在は過去の延長線上にありますが、それは「現在の心は過去に囚われやすい」と言い換えることもできます。過去にひどくつらい出来事があると、それに縛られて、過去の感情までが蘇ってつらくなってしまうのです。

 

一方、過去ではなく未来のことを考えて、悩みや不安を抱えてしまうことも多々あります。たとえば「サザエさん症候群」はそのいい例でしょう。

「サザエさん症候群」とは、学生や会社員などが、日曜日の夕方、「サザエさん」のアニメが放送されるころになると、翌日からの学校や仕事のことを考えて憂鬱になってしまう現象です。過去・現在・未来はつながっていますから、今までにつらい経験をしていると、「未来もきっとつらいだろう」とネガティブな想像をしてしまい、苦しくなってしまうのです。

 

過去の出来事に囚われて悩んでいる人も、つらい未来を予想して不安になる人も、共通しているのは、「現在」にいながら、思考は「現在」でなく、「過去」や「未来」にあるということです。悩んでいる人の多くは、実は今現在ではなく、終わったはずの過去の出来事や、まだ起こってもいない未来のことを考えて、不安になったり、苦しくなったりしているのです。

つまり、思考を現在へと戻せれば、不安や苦しみを減らせるということです。

これから紹介する「書き出し療法」には、思考を今現在へと集中させる効果もあります。

自分の思いや考えを書き出す療法ですから、過去や未来ではなく、現在の自分と向き合うことになるからです。また、書くという行為だけに集中することで、思考は自然と「今、ここ」に集中します。

 

ちなみにGoogleやAppleといった世界的企業が研修に取り入れていることで注目されている「マインドフルネス」も、「今、ここ」にだけ心を向ける瞑想です。たとえば自分の呼吸にだけ意識を向けたり、歩きながら歩行にだけ集中したりします。今生きているこの瞬間にだけ意識を向けることで、過去を悔やんだり未来を心配したりして乱れがちな心を安定させ、集中力を高めたり、ストレスを解消したりする効果があると言われています。「書き出し療法」にも同様の効果が期待できます。

 

 

「書き出す」ときのポイント

ここからは「書き出し療法」の実践方法を説明していきます。この療法は、①~④の質問に対して、その答えを書き出すものです。

記録表(PDF版)もありますので、ダウンロードしてご使用ください。

https://online-course.jp/wp-content/uploads/2021/01/766ae262f173fe474b6189638cda56bc.pdf

 

まずは、書き出すときに心がけてほしい3つのポイントをお伝えします。

 

(1)きれいな文章を書かなくていい

この療法で大切なのは、自分の頭の中にあるものをそのまま紙に書き出すということです。人に見せるために書くものではありませんので、きれいにまとめようとしなくて大丈夫です。自分が見直して意味がわかればいいので、文法的におかしくても問題ありません。

むしろ「正しい文章を書こう」「わかりやすくまとめよう」とすると、自分の本心とはかけ離れた内容になってしまう恐れもあります。

自分の思っていることを素直にそのまま書き出すことを大切にしてください。

 

(2)漢字で書く必要はない

最近はパソコンやスマートフォン(スマホ)を使って文字を書くことが多くなり、いざ、手書きで文章を書こうとすると、「漢字が思い出せない」ということがよく起こります。そういうときもわざわざ漢字を調べる必要はありません。ひらがなやカタカナで書けばOKです。

さきほども述べたように、人に見せるために書くものではないので、すべてがひらがなで書かれていても、字が間違えていても、自分が読めて、理解できれば問題ありません。

同じ理由で、「きれいな字で書こう」「読みやすくなるように文字の配置に気をつけよう」といった配慮も必要ありません。

 

(3)書きたくないことは書かなくていい

自分の頭の中にある気持ちをそのまま書き出すことが大切とお伝えしましたが、すべてを赤裸々に書かなくてはならないというわけではありません。人に見られたら自分の立場が危うくなることなど、「隠しておきたい」と思うことは書く必要はありません。誰かに見せるものではありませんが、文字として記録することにリスクを感じるなら、書かないほうがいいでしょう。

これらのポイントは、カウンセリングの現場で紹介する心理療法のワークシートを書くときにも当てはまります。とにかく、自分の本心を文字として残せるように、あまり深く考えず、リラックスして書くことを心がけましょう。

それでは、例を参考に実際に書き出してみましょう。

 

 

①今、あなたが抱えている悩み・不安・心配・症状・問題は何でしょう?

 

【記入例】

・自分が嫌い

・ひとりでいると寂しくてしかたがない

・人に気を使いすぎる

・人に嫌われたくない

・子どもたちの将来が心配

・頭痛がつらい

 

【書き込み欄】

 

 

 

 

 

 

 

②問題の捉え方を変える

問題を縦に並べると、整理しやすい

さきほどの「①今、あなたの抱えている悩み・不安・心配・症状・問題は何でしょう?」

いう質問に対して、はじめは「たくさんありすぎて途方にくれる」「自分を苦しめる問題が永遠になくならないのではと、憂鬱になる」と思った方も多いことでしょう。

けれども、それを紙に書き出してみるとどうでしょう? 自分のなかに「漠然と」「たくさんある」と思われていた問題が明確になり、少し気持ちが楽になったのではないでしょうか?

とはいえ、書き出してみたところで「目の前の問題を自分で解決できるとは思えない」

「どうやって解決したらいいかわからない」という人がほとんどだと思います。

 

そこで重要になるのが問題の並べ方です。

たとえば、次のような7つの悩みを抱えている人がいたとします。

「上司との関係がうまくいかない、不倫の恋がやめられない、自分が嫌い、仕事に集中できない、部屋が片付かない、髪がボサボサで気持ち悪い、虫歯が気になる」

このように問題を並列に(横に)並べるとどこから手をつけてよいかわからなくて、結局何もできなかったり、反対にすべてをどうにかしようとして今以上につらくなったりします。

 

そこでおすすめしたいのが、悩みに優先順位をつけることです。

解決したい問題や悩みは、横にではなく、縦に並べてください。つまり、問題に優先順位をつけるのです。

さきほど例にあげた7つの悩みを縦に並べてみます。

 

 

上司との関係がうまくいかない

 

仕事に集中できない

 

自分が嫌い

 

不倫の恋がやめられない

 

虫歯が気になる 

 

部屋が片付けられない

 

髪がぼさぼさで気持ち悪い 

 

自分が今、向き合うべき問題は何なのか、まずは何をすべきかが一目瞭然になります。仕事でも、その日、1日でやるべきことを優先順に高い順に縦に書き出して、To Doリストを作る人がいると思いますが、それと同じです。

自分の悩みや問題も、縦に並べて書いて、同じように上から順に片付けていけばよいのです。

また、問題がひとつ解決すれば、それが成功体験となり、新たな問題にも自信をもって取り組めます。

加えて、1つ問題を解決すると、案外、ドミノ倒しのように、その他の問題も次々クリアされていくこともよくあります。というのも、一見関係のないように見える問題も、つながっていたりするからです。

たとえば、

 

 

上司との関係が改善される

仕事がやりやすくなって集中できるようになる

仕事でよい結果が出て、自分に自信がつく

人に依存する必要がなくなって、不倫を終わりにできる

 

 

 

ということも考えられます。

 

ただ、ここで大切なのは問題を解決できるかどうかではありません。あなたの中にある問題を明確にし、整理することで、「自分でも問題を解決していけそう」と思えれば十分です。それだけでも気持ちが楽になって、少し前向きになれるはずです。

あらためて「①今、あなたが抱えている悩み・不安・心配・症状・問題は何でしょう?」で書き出したものを縦に並べてみてください。

 

どんな基準で優先順位をつけるかは、あなたの自由です。自分が解決したい順に並べてもいいですし、簡単に解決できそうな順に並べてもOKです。

1つひとつ解決していくイメージで、上から順に書いていくといいでしょう。

 

 

①-2

今、あなたが抱えている悩み・不安・心配・症状・問題は何でしょう? ①-1で書き出したものを、縦に並べてみてください。問題などが多いようでしたら、まずは、5つに絞り、縦に並べてみましょう。

 

【書き込み欄】

 

 

 

 

 

 

 

思い通りにならないことがある人は○○していない

それでは、次の質問です。「②今、思い通りにしたいのに思い通りにならないことは何でしょう?」

まず、この問いの答えを書き出してみてください。職場の人間関係や親との関係、金銭問題、病気のこと、自分の精神状態など、なんでも結構です。

 

 

②今、思い通りにしたいのに思い通りにならないことは何でしょう?

 

【記入例】

・部下にやる気が感じられない

・同級生との対人関係

・感情をうまくコントロールできない

 

 

【書き込み欄】

 

 

 

 

 

 

 

カウンセリングでは、この問いの答えを書いてもらった後、クライエントに「どんな気持ちがしますか?」と尋ねます。するとたいていは、「情けなく感じる」「自分がダメな人間だと思う」「つらい気持ちになる」といったマイナスな答えが返ってきます。あなたも自分の答えを見て、同じように感じるかもしれません。

けれども、この問いの答えは、見方を変えればプラスに捉えることもできます。

 

なぜなら「思い通りにならないことがある」=「思い通りにしたいことがある」ということだからです。つまり、「自分はこうしたい!」という希望を持っているのです。思い通りにならないことがある人は“絶望”していないのです。

 

今、あなたはいくつもの問題や悩みを抱えて、つらい状況かもしれません。そして「自分には何もできない」「私はダメな人間だ」と思い込んでいるかもしれません。けれども自分に絶望して、人生を諦めている人は、何事もどうでもよくなってしまうものです。ちょっとした希望も持てないでしょう。

希望がある(思い通りにしたいことがある)ということは、人生をあきらめていない証です。まだ、あなたには自分や人生を変えようとするエネルギーがあるのです。

 

このようにある事柄を捉える「枠組み(フレーム)」を変えて、別の視点で物事を捉え直すことを心理学では「リフレーミング」と言います。リフレーミングの例として有名なのが、コップに水が半分入っている時、「半分しか入っていない」と思うか、「半分も入っている」と思うかというもの。物事は、どの方向から見るか、その捉え方によって、マイナスにもプラスにも考えられるものなのです。

 

とはいえ、思い通りにならないことが多くて生きづらさを感じているのに、「それは、あなたに希望があるということですよ」と言われても、「そうですよね!」とすぐに納得できる人は少ないでしょう。

 

実際、カウンセリングでも、「やっぱり、希望なんて持てない」「そんなに前向きになれない」という方がほとんどです。

そういう方は、無理に「自分は絶望していない」「自分には希望がある」とポジティブに考えようとしなくて結構です。自分の心に嘘をついていることになりますから、余計つらくなってしまいます。

 

ただ、あなたが「思い通りにできないこと(思い通りにしたいこと)」は何かと聞かれて、書くことができたという事実は変わりません。そのことだけを素直に受け止めましょう。

実感できなかったとしても、あなたには「こうしたい」「こうなりたい」という希望・願望があるのです。それが、未来を明るく変える力になります。

 

 

自分の問題と相手の問題を線引きする

次の質問は「③このワークの中で解決したい自分の問題は何でしょう?」というものです。

この3つ目の問いの一番のポイントは、「自分の」というところです。あなたが今、抱え込んでいる悩みは、本当に自分の問題でしょうか?

たとえば、職場でいつも機嫌が悪く、すぐに怒り出す上司に悩んでいたとします。では、怒りっぽい性格をどうにかしなくてはいけないのは、誰でしょう。あなたではありませんよね?

「部下にすぐに怒ってしまう」という問題は、上司が解決すべき問題です。つまり、あなたが悩んだり、どうにかしようと思ったりする必要はないのです。

子どもが勉強をしないことに悩んでいる親御さんも多いでしょうが、これも自分の問題と他者の問題を混同している例の1つ。勉強しなければ後々困るのは子どもですし、親が代わりに勉強してあげることもできないのですから、「子どもが勉強しないこと」は、子ども自身の問題なのです。

 

自分の問題と他者の問題を区別する必要性は、「自己啓発の父」とも言われる心理学者アルフレッド・アドラーも、「課題の分離」として提唱しています。アドラーは、何か課題(問題)に直面したとき、まずはそれが自分の課題なのか、他者の課題なのかを考えるべきだと述べています。

課題を分離するとき、基準となるのが、「自分がコントロールできる問題なのか」ということ。

さきほどの例でいうと、上司の怒りっぽい性格をあなたがどうにかすることはできませんし、勉強しない子どもをあなたが無理やり勉強させることもできないでしょう。自分ではどうにもできない(コントロールできない)問題は、自分の問題ではないのです。

 

精神科医エリック・バーンはこのように述べています。

 

「過去と他人は変えられない。しかし、

今ここからはじまる未来と自分は変えられる」

 

他人は変えることもコントロールすることもできません。つまり、他人の問題を自分が解決することもできません。悩むだけ無駄なので、すぐに手放してしまいましょう。

 

また、問い③の答えを考えるとき、「解決したいかどうか」という視点も必要です。

たとえば問題を縦に並べるで、例として出した「髪がボサボサで気持ち悪い」というのは、悩みの1つではあるかもしれませんが、後回しにしてもよいことかもしれません。

ちょっと放っておいても困らないなと思える問題は、頭の隅にしまってしまいましょう。また気になったときに、どうするか考えればいいのです。

 

責任感が強い人、完璧主義の人ほど多くの悩みを抱えがちですが、それは、他者の問題まで自分の問題のように考えてしまうことが原因だったりします。

今悩んでいる問題を改めて、自分の問題と他者の問題という視点で整理してみてください。

改めておうかがいします。「③このワークの中で解決したい自分の問題」は何ですか?

 

 

③このワークの中で解決したい自分の問題は何でしょう?

 

【書き込み欄】

 

 

 

 

 

 

③気分をコントロールする

人が最終的に手に入れたいものは「気分」

最後の問い④について説明する前に、「人が本当に臨んでいるものは何か?」についてお話ししたいと思います。

 

あなたの願望、夢は何ですか? 「お金持ちになりたい」という人もいれば、「結婚したい」という人もいるでしょう。そのほか「出世したい」「海外に住みたい」「○○の資格をとりたい」など、人によってさまざまな願望があります。

 

では、その願望が叶えられれば、あなたは必ず幸せになれるでしょうか? 残念ながらそうとは限りませんよね? 大金を手に入れられたら、そのときは幸せかもしれませんが、お金がなくなる恐怖で毎日が楽しくなくなる場合もあります。また、結婚したのはいいけれど、夫や妻の浮気や暴力などで不幸になる人もいるでしょう。

 

また、人の願望は、その人の経験や状況によって変わっていくものです。仕事にしか興味がなかった人でも、年齢を重ねて、さまざまな人と出会う中で、仕事よりも家庭を大切にしたいと思うようになることだってありますし、その反対だってあるでしょう。

自分の本当の願望は、実はよくわからないものなのです。

 

ところが、一方で人が最終的に手に入れたいものは、わかっています。

それは何かというと、「気分」です。

「お金持ちになりたい」「結婚したい」のは、幸せな気分、うれしい気分、楽しい気分、充実した気分など「いい気分」になりたいからです。

「〜になりたい」「〜したい」というのはあくまでも手段であって、その手段を使って、心地よい気分を手に入れたいのが人間なのです。

 

それは日常生活での行動を振り返ってみてもよくわかります。

たとえば入浴や掃除、洗濯といった日々の習慣は、「気持ちいい」「スッキリする」など「いい気分」になれるから続けられるという側面もあるはずです。また、お酒を飲んだり、おしゃれをしたり、テレビをみたりするのも「いい気分」を得るためでしょう。

いい気分を得るために、人は行動するのです。

 

「気分」を先取りする方法

「いい気分」は行動しなければ(願望を叶えなければ)手に入らないかというと、そうでもありません。実は、気分は先取りできます。

自分の願望が叶った姿を思い描くだけでも、「いい気分」を味わうことは可能です。

最後の質問「④このワークの後で、あなたはどうなっていますか?」は、そのためのものです。

今抱えている問題が解決した後、1~3年後くらいを想定して、あなたはどうなっているか、どんなことをしているかを書いてみてください。

そのとき、「幸せになっている」「年収1000万円稼いでいる」など、「~している」「~になっている」という表現で書くようにしましょう。

 

これは、コーチングなどに使われる手法のひとつ「アファメーション(肯定的自己暗示)」を利用した方法です。「~したい」という願望を「~している」と断定することで、潜在意識に働きかけ、ポジティブな感情や行動を促します。

 

ただ、まだわからない未来のことを「~している」「~になっている」と断言することに違和感を感じる人も多いでしょう。とくに今大きな悩みを抱えて苦しい人が、何もかもうまくいっている未来を確信するのは難しいはずです。

心の底では「自分が幸せになれるはずない」と思っているのに、「幸せになっている!」と思い込もうとしても、いい気分になれるはずがありません。

 

そういう場合は、「かもの法則」を利用しましょう。「かもの法則」は、日本におけるイメージトレーニング研究・指導のパイオニアで、2008年北京オリンピックで女子ソフトボール日本代表を金メダルに導いた西田文郎さんが提唱している心理メソッドです。

西田さんは、「人があきらめるのは、『失敗するかも』『ダメかも』とネガティブな予想、予感をするからだ」と説いています。そんなとき、「私は成功する!」と思い込もうとしてもうまくはいきません。

そういうときは「私は成功するかも」と「かも」つけてみます。それでも違和感がある人は「もしかしたら、私は成功するかも」と、さらに頭に「もしかしたら」をつけてみましょう。これなら、悪い予感をいい予感に切り替えられるはずです。

 

マイナスな「かも」によってネガティブになってしまった感情は、プラスの「かも」を使うことでポジティブへと近づけることができます。

もちろん「~している」と断言しても、すんなり受け入れられるという人は、「もしかしたら~かも」をつける必要はありません。

自分が素直に受け止められる表現で、ちょっと先の幸せな自分の姿を書き出します。その姿をありありとイメージし、「いい気分」を先取りしましょう。すると、自然と、自分を変えよう、行動しようというポジティブな感情もわいてくるのです。

 

 

④このワークの後で、あなたはどうなっていますか?

(「~している」「~しているかも」「もしかしたら~しているかも」という表現にする)

例)幸せになっている。年収1000万稼いでいるかも。もしかしたらオリンピックに出ているかも。

 

【書き込み欄】

 

 

 

 

 

 

脳を不快から快へ

人の感情は、いつも揺れ動いています。「楽しい」「おもしろい」というポジティブな感情のときもあれば、「苦しい」「つらい」というネガティブな感情に襲われるときもあるのが人間です。

 

さきほどご紹介した西田文郎さんは、『一瞬で人生が変わる恩返しの法則』(SBクリエイティブ)で次のようなことを述べています。

 

「人の心は、喜びと悲しみ、快・不快、ポジティブとネガティブ、楽しさと苦しさという2つの感情の間を振り子のように揺れ動いている。そして、心の振り子のバランスをとりながら感情をコントロールしている」

「人間の『感情脳(大脳辺縁系)』は揺れ動いていて、楽しいことやうれしいことが起こると『快』になり、苦しいことや嫌なことが起こると『不快』になる」

そして、このような感情の動きを西田さんは「振り子の法則」と名づけています。

 

「不快」な感情はないほうがよいと思われがちですが、人間の感情は、振り子が揺れるように、快になったり、不快になったりするほうが正常なのです。

大切なのはマイナスな出来事があったときに、そのままにしておかないこと。不快な感情が続くと、心も体もどんどん疲弊していって、感情の振り子は、不快のほうへ偏ってしまいます。苦しい、つらいという状態が続いてしまうのです。

問い④の質問で「いい気分」を先取りしても、また嫌なことがあればすぐに感情の振り子は不快のほうに触れて、気分も落ち込みます。

 

そういうとき、感情の振り子を再び、快のほうへ近づけるのに役立つのが「見える化」です。

 

これはスポーツ選手などもよく行っているイメージトレーニングの方法で、たとえば、憧れの選手の写真や目標タイムを書いた紙などを見えるところに貼って、自分の願望を「見える化」します。これにより、常に理想の自分や記録を達成した自分をイメージしやすくなり、やる気や自信を高める効果があります。

 

同じように、「幸せになっている」「年収1000万円稼いでいるかも」など、問い④の答えを別の紙に書き出して、目につくところに貼っておくと、見るたびに自分の理想の姿がイメージでき、そのたびに、感情を不快から快へ近づけられます。いい気分を取り戻すのに役立つのです。

 

ダイエットしたい人は、理想の体型をしたモデルの写真や、やせたら着てみたい洋服の写真などを貼っておく、お金持ちになりたいなら1万円札やお金の束が積み重なっている写真を貼っておくといった方法も効果があります。

 

気分の先取りをして、ネガティブな気持ちをポジティブに近づけられれば、それが新たな行動につながります。行動を起こせば、必ず変化は起こるものですから、それが成功体験となり、また新たな行動につながって・・・・・といいサイクルが生まれるはずです。

 

「心のストレッチルーム」
前田 泰章

 

[参考文献]

●『一瞬で人生が変わる恩返しの法則』

著:西田文郎(SBクリエイティブ)
●『癒されながら夢が叶う!問題解決セラピー』

著:矢野惣一(総合法令出版)
●『「なんとなく生きづらい」がフッとなくなるノート』

著:前田泰章(クロスメディア・パブリッシング)

 

講師プロフィール

 

前田 泰章

 

「生きづらさ改善」の専門家

問題解決型カウンセラー、著述家

 

1976年生まれ、埼玉県出身。日本体育大学卒業後、ファミリーレストラン店長、キャリアコンサルタント、中学校教諭を経たあと、原因不明の目の病気になり妻子を抱え失業。専業主夫を2年間経験し、心理療法と出合い2010年、元教師としての経験を活かし、「教師の悩み専門」のカウンセリング「心のストレッチルーム」(埼玉県川越市)を開業。その後、「不登校の親御さん」を対象としたカウンセリングをおこなう。

 

現在は、「カウンセリング」とさまざまな「心理療法」のメソッドを組み合わせた「問題解決型カウンセリング」を開発・実践し、人間関係の悩み、うつ病、適応障害、社会不安障害、依存症などを薬に頼らないで、通常なら半年~1年かかる症状を5回前後のカウンセリングで解決に導いている。セミナーやワークショップにも力を入れ、さらに多くの人に問題解決メソッドを広めるため、2020年「生きづらさ」を短期間で改善するオンラインコースを開設。

 

著書には、カウンセリングの現場でクライエントに伝授している心理療法の技法をまとめた、『「なんとなく生きづらい」がフッとなくなるノート』(クロスメディア・パブリッシング)がある。

東洋経済オンライン、週刊女性プライム、小五教育技術(小学館)、電車内で取り上げられるなどして、ロングセラーとなっている。今後は翻訳され台湾での発売も控えている。その他メディア掲載多数。

 

*西武池袋線(池袋~飯能)にて掲出

 

*台湾の出版社(三民書局)より