フォーカシング療法の実践方法

フォーカシング療法の具体的な進め方を、手順を追って解説します。

実例として私(前田)がフォーカシング療法を行ったときの実例も紹介しておくので、参考にしてください。

① あなたはどんなことに悩んでいますか? 

問題が起きている場面や症状を具体的に教えてください。覚えているのであればかなり昔のことでもOKです。

なるべくネガティブな強い感情(苦しい、悲しい、怒り、焦り、さみしい、つらいなど)を感じたときのことを思い出してください。

 

あなたがどんなことに悩んでいるのか、苦しい思いをしているのか、具体的な場面や症状を思い出してみましょう。

 

親からひどい言葉を言われているとき、仕事場で先輩や同僚に無視されてつらい思いをしているときなど、なんでも結構です。

 

 

私がフォーカシング療法を行ったのは、大学卒業後から約8年間勤めた外食チェーン(飲食店)を退職した後です。

 

そのとき頭に浮かんだ場面は、飲食店の店長時代のこと。そのとき、私は1日16時間以上働き、土日も休めない状況が続いていたため、心身ともに疲れ切っていました。それでも毎日お酒を飲まずにはいられないのです。

まだ小さかった娘とは、娘が起きている時間には会えませんし、当然、運動会や卒業式などの行事にもまったく参加できず、寂しい思いをさせていたのもつらかったです。

そのため、こんな場面が浮かびました。

 

「飲食店の店長時代。何時に帰宅しても、お酒を飲んでしまう。妻と娘は寝ていて、居間で一人ビールを飲んでいるある日の場面。深夜2時くらい」

② ①のときのあなたは、どんなことを感じていますか?

ここでは、①の状況にいるあなたをイメージしてみてください。

過去のあなたは、どんな感覚や感情を感じているでしょうか。

 

たとえば、クライエントさんからよく聞かれるのは「もやもやする」「ソワソワする」「ずしーんとくる」「ドキドキする」「からっぽな感じ」などです。

 

私の場合はというと、お酒が入り少し気分は高揚しているが、なんとなくソワソワしている。その当時、人手不足やバイトの欠勤などで、満足にシフトが組めない状況が続いていて、「明日の営業は大丈夫だろうか」と毎日、心が休まらなかった。

③ ②で感じた感覚(フェルトセンス)は、身体のどの部分で強く感じますか?

②で感じた感覚がフェルトセンスです。

 

そのフェルトセンスが、身体のどこに強く感じるかを探ってみましょう。

喉ですか? 胸ですか? それとも胃のあたりやおへその下ですか?

よく分からないようでしたら、胸や胃のあたりに手をあてて探ってみてください。

 

私の場合は、胸のあたりにソワソワを感じました。

④ フェルトセンスにあいさつをします。

「こんにちは、私はあなたがそこにいることをちゃんと知っているよ」

「胸にあるソワソワした感覚」など、身体の一部にあるフェルトセンスを意識して、そこに向かってあいさつをします。

その部分に手を当てると、身体に意識が向かいやすくなります。

 

声に出して言えるなら、そのほうが音として耳からも言葉が入ってきて、自然と受け入れられるので効果的です。

 

手順⑤以降も、フェルトセンスへの問いかけは声を出して言ってみましょう。ただ、まわりに人がいるなど、声を出せない状況なら、心のなかで唱えるだけでもOKです。

 

⑤ フェルトセンスにもっと近づき、一緒にいてあげます

泣いている赤ちゃんをあやすような、あるいは仲のいい友だちと並んで芝生に腰掛けているような優しい感覚で、あなたの身体の一部にあるフェルトセンスに寄り添います。

 

黙って1分間くらい、一緒にいる感覚を味わいましょう。

 

中にはこの時点で、フェルトセンスが丸いボールだったり、スライムみたいなやわらかい物体だったり、形のイメージができている人もいるでしょう。

そういう場合は、その物体と自分が寄り添っているイメージを思い描いてみてください。

 

⑥ そのフェルトセンスにぴったりな名前をつけ、「○○って呼んでいいかな?」と呼びかけます。

そして、フェルトセンスを強く感じる部分に手を当てて、語りかけます「○○、大丈夫だよ! 私がついているからね」

あなたが感じているフェルトセンスに好きな名前をつけます。

私の場合は「ソワソワ君」という名前をつけました。

 

名前をつけたら「〇〇君って呼んでもいいかな?」と問いかけます。

もし、「その名前はちょっと違うよ」などという答えが返ってきたら、ほかの名前に変更します。

 

さらにフェルトセンスに対して、「〇〇君、大丈夫だよ」と呼びかけます。そうやって、フェルトセンスの存在を認めてあげると、その嫌な感覚や感情は暴れなくなります。

 

 

 

ここまでできれば、フォーカシング療法は大成功です。

ただ、ここからさらにフェルトセンスと深くコミュニケーションできると、より感情のコントロールがしやすくなりますので、先に進んでみましょう。

 

⑦ フェルトセンスと対話します

ア)気持ちを伝える

フェルトセンスに対して伝えたいことはなんですか? 

あなたの気持ちを伝えてみてください。

 

私の場合はこう伝えました。
「飲まないとやってらんない。今日もパートがばっくれた。人間不信になりそうだ。不安だから習慣だから飲んでしまう。体に悪いとは思っていてもやめられない・・・」

 

 

イ)フェルトセンスはあなたのことをどう思っていましたか?

今度は、フェルトセンスの思いに耳を傾けます。フェルトセンスに向かって問いかけてみてください。

 

「〇〇君、私のことをどう思っているの?」

 

人によって、言葉で答えが返ってくることもありますし、映像が見えることも、感覚として伝わってくることもあるでしょう。

 

フェルトセンスのある身体の一部(胸)や、フェルトセンスが形になったもの(スライムのようなものなど)に口があって、言葉を発しているというイメージを持つ人もいます。

どんな形でもいいので、フェルトセンスからの返事を受け取ってみましょう。

 

ただ、返事が返ってこなくても大丈夫です。

フェルトセンスは何かを伝えたい、何かをして欲しいという事もありますが、ただ単にそこにいることを分かってほしいだけの場合もあります。

 

私の場合は、「心配していた」という返事・感覚を受け取りました。私のことは嫌いではないようでした。

 

 

ウ)「○○、何があなたをそんなに苦しませて(悲しませて、不安にさせて)いるの?」とフェルトセンスに問いかけて、ネガティブな感情や感覚の原因を探ります。

フェルトセンスがなぜそこにあるのか、その原因を探ります。イ)のときと同じようにフェルトセンスに問いかけて、返事を受け取りましょう。

 

ソワソワ君の返事はこうでした。

 

「今の仕事(飲食店長)は何となく違う。自分の居場所がない感じがする。いやいや仕事をしている。もう仕事には行きたくない。逃げたい。でも、だからといってやりたいことも分からない」

 

 

エ)フェルトセンスが現れた目的を探ります。次のように問いかけてみましょう。

「その感覚を出すことで、あなたは何を伝えようとしてくれているの?」

 

「あなたは私に何をしてほしいと思っているの? 私にできることを教えて」

 

イ)と同じように問いかけて、フェルトセンスが伝えたいこと、あなたに対して何を望んでいるのか、メッセージを受け取りましょう。

 

私の場合はソワソワ君からこんなメッセージを受け取りました。

 

「体をいたわって、でも、不安な気持ちがあるなら飲んでもいいんだよ。僕が我慢するから、心配しなくていいよ」

 

「でも、本当はいたわってほしいな。お酒はほどほどにしてほしいかな。あなたの気持ちは分かるから。僕が頑張るから。でも、ほどほどにしてね。あなたのことを恨んではいないよ。本当に心配しているんだ。それだけは分かってね」

⑧「○○、あなたはこれからどういうふうになっていくの? 何もかも大丈夫になったら、どんな感じになるのか、今、私の身体に教えて」とフェルトセンスに呼びかけ、新しい感覚を教えてもらいます。

あなたが抱えている問題が解決したら、ソワソワ君のような身体にあった嫌な感覚は、どんな感覚に変わるのかを探ります。

どんないい感じになるのか、身体に感じる新しい感覚を感じましょう。

 

私の場合は、身体も心も楽になって、優しい気持ちになったような気がしました。

⑨ ⑧で教えてもらった感覚を思い出すのにぴったりな合言葉やポーズを決めます。

⑧で感じた「よい感覚」は何もしなければ流れ去ってしまいます。

そこで、いつでも思い出せるように、スイッチの役目をする合言葉やポーズを決めておき、また嫌な感情や感覚で苦しいとき、よい感覚を再現できるようにしておきます。

 

心理学では、これを「アンカリング」といいます。アンカリングとは五感にある刺激を与えると、特定の感情や反応が引き出されるように心身に覚え込ませること。

 

ラグビーの五郎丸選手がゴールキックの前に行っていたポーズなど、スポーツ選手などが行うルーティーンもそのひとつです。

 

私の場合は「胸に手を当てて『大丈夫』と言う」という決まりをつくりました。

これを何度も繰り返し、その都度、優しい気持ちを感じて、クセづけていきます。

⑩フェルトセンスに感謝の言葉を伝えましょう。

「ありがとう、いつもあなたのことを大切におもっているよ」

フェルトセンスに対して感謝の気持ちを伝えます。

また、他に何か言ってあげたいことがあれば、それも言葉にして伝えましょう。

 

これでフォーカシング療法は終了ですが、クライエントさんにはさらに、今後、フェルトセンスとどうつき合っていきたいかを考え、決めてもらいます。
その選択肢は3つ。

 

  1. 仲よくつきあう
  2. 適切な距離をとる
  3. 決別をする

 

「仲よくつきあう」場合は、フォーカシング療法で行ったように、自分の一部としてフェルトセンスの存在を認めて、「こんにちは」「今日の調子はどう?」などと対話をするようにし、気持ちを落ち着けるようにします。

 

「適切な距離をとる」を選択する場合は、フェルトセンスを外在化します。

何か自分とは別の物体としてイメージするのです。丸いボールのような形でもいいですし、スライムのようなやわらかい物体だったり、人の形以外のものであればどんな物でも構いません。

それをイメージのなかで自分の足元に置いたり、あるいは4、5メートル離れたところに置いたり、自分にとって心地よい距離にフェルトセンスがいるとイメージしましょう。

 

「決別をする」を選んだ人は、イメージのなかで外在化したフェルトセンスを目の前から消します。

たとえば、ロケットにぐるぐる巻きにして宇宙の果てまでビョーンと飛ばすイメージをするという方法があります。そうやって、自分の周囲からフェルトセンスを排除してしまうのです。

 

ただ、ネガティブな感情は1回ではおさまりません。しばらくすると、またフェルトセンスを感じることもあるでしょう。そのたびにフォーカシング療法を行い、感情をうまくコントロールしていきましょう。