不安を切り離す

「フォーカシング療法」

身体の感覚を通じて、心の声を聴く心理療法

 

心と身体はつながっています。

だれしも緊張するとおなかが痛くなったり、不安で胸がざわざわしたりなど、心の変化が体の症状として表に現れることはよくありますよね。

 

「(心配事があって)頭が痛い」「胸が張り裂けそう」「肩の荷がおりる」など、体の一部を用いて感情を表す慣用句がたくさんあるのも、人は昔から心と身体がリンクしていることを感覚的に知っていたからだといえます。

 

これから紹介する「フォーカシング療法」は、そんな心と身体のつながりを利用して、感情をコントロールする療法です。

 

これは、カウンセリング技法の基礎を築いたカール・ランサム・ロジャーズと共同研究をしていた心理学者ユージン・ジェンドリンによって体系化されました。

 

フォーカシングとは日本語で「焦点を当てる」という意味です。

 

フォーカシング療法では悩みや不安があるときに感じる「心がもやもやする感じ」「肩が重い感じ」といった、言葉では言い表せない身体の感覚に焦点を当てます。

 

そして、そこから心の声(おもにネガティブな感情)を探り、その感情にどう対応すればよいか、自分にあった対処法を見つけます。

 

フォーカシング療法では、この漠然とした身体の「なんとなく嫌な感覚」を「フェルトセンス」と呼びます。

フェルトセンスはいつでも自分の内側にあるものですが、日常生活では重要視されなかったり、まったく気づかなかったり、放っておかれることも多いでしょう。

 

しかし、これは逆に言えば、気づいてほしいという心の叫びが、身体の感覚となって現れているとも考えられます。

 

フォーカシング療法では、普段やり過ごしてしまいがちなフェルトセンスに注目することで、今まで自分でも気づかなかった本心に気づくことができます。

 

実際のカウンセリングでは、4回目か5回目に行うことの多い療法です。

 

フォーカシング療法の説明

 

フォーカシング療法には、2つの目的があります。

 

1.ネガティブな感情を小さくして、切り離す

フォーカシング療法ではまず、あなたが抱えている不安や苦しみなどのネガティブな感情が、身体(首から下)のどこに、どんな感覚となって表れているのかを探り、そこに意識を向けます。

 

そうすることで、ネガティブな感情を身体の一部に集中させることができます。

 

たとえば、上司との関係がうまくいかず苦しいとき、「おなかが重い」というフェルトセンスを感じたとします。

 

フォーカシング療法ではこのおなかの嫌な感覚に焦点を当てて、苦しみがおなかにあることを意識します。

すると、体全体に広がっていた苦しみが、おなかだけに集中するので、ネガティブな感情(苦しみ)を小さくできます。

簡単に言うと、「私が苦しい!」から、「私のおなかが苦しい」に変わるのです。

 

 

次に、そのおなかにあるフェルトセンスに名前をつけます。

 

これは、自分とは別の存在であることを意識して、分離するためです。そうすると、その嫌な感覚(フェルトセンス)を排除することも、適切な距離感でつきあうこともできるようになります。

 

ちなみに身体のどの部分に嫌な感覚が表れるかで、その人が抱えている「心の問題の本質」がわかると言われています。次はその例です。

●肩・首筋・・・責任を背負いすぎている。緊張。
●喉・・・自分をうまく表現できていない。感情を抑圧している。言いたいことが言えない。
●胸・・・愛情の欠如。孤独感。自信喪失。自己嫌悪。
●胃・・・やりたくないことを我慢してやっている。
●下腹・・・不安。恐怖。

 

2.ネガティブな感情の存在を認めて、安心感を得る

フェルトセンスを小さくして、分離したら、そのフェルトセンスとコミュニケーションをとります。これはフェルトセンスの元となっているネガティブな感情の存在を認めるためです。

 

苦しみや不安といったネガティブな感情が続くと、人はそこから逃れるために、「苦しくない、苦しくない・・・」などとネガティブな感情を否定しがちです。

 

けれども、本当はそこにあるものを「ない」というのは無理があります。かえってネガティブな感情を意識してしまい、つらくなってしまうでしょう。

 

感情をコントロールするには、まず、ネガティブな感情の存在を受け止めることが大切です。そして、「ネガティブな感情もあっていいんだ」と認めてあげれば、それだけで感情は安定します。

 

とはいっても、この段階では、よくわからないという人も多いでしょう。

フォーカシング療法の具体的な進め方は、次回から説明しますので、実際にやってみながら理解していただきたいと思います。

 

ただし、なかには身体の感覚(フェルトセンス)を感じにくい方もいます。

 

とくにいつも頭で考えすぎてしまう人は、フォーカシング療法が苦手な傾向にあります。
そういう人は、フォーカシング療法を行う前に、日常生活で嫌なことがあったとき、身体のどこかに漠然と気になる感じがないか探ってみてください。

そうやって改めて意識すると、フェルトセンスが感じられるようになる人もいます。

 

また、身体の感覚に意識を向けるようにすると、余計なことを考える時間が少なくなるので、頭を休ませる効果もあります。

 

それでもフェルトセンスが感じられないという人は、フォーカシング療法を無理に行わないほうがよいでしょう。今後紹介する別の療法を実践すればまったく問題ありません。